後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

いざ、出発

夏晴亮(シァ・チンリァン)様、こちらを身に着けておいてください」
「有難う御座います」

 馬宰相から護符を手渡される。これを持っていると、一定の間身を守ってくれ、外からの衝撃もある程度耐えられるらしい。衝撃が大きければ一度で護符は破れてしまうが、あると無いのでは雲泥の差だ。

 護符は全員に配られた。(ヂュ)大将を先頭に、等間隔に一人ずつ術師を挟み、任深持(レン・シェンチー)と夏な晴亮は真ん中に配置された。二人の側には馬宰相が付いた。

「それにしても、貴方が馬に乗れるとは驚いた」
「意外ですか?」

 任深持は自分の後ろか、術師の後ろに乗ってもらうつもりだったが、夏晴亮がひょいと慣れた調子で乗ったので、そこにいた皆が目を見張った。

「以前、荷運びの仕事を手伝った時に教わったんです。このくらいは出来ないといけないと言われて」
「逞しいな。素晴らしい」
「恐縮です」

 褒められて嬉しくなった。馬に乗れなかったら、それだけで今回の内容的に迷惑がかかる。小さなことでも役に立ってよかった。一人で生き抜くのはお腹が空いて寒くて大変だったが、こうして後々繋がることもある。それでも、あの生活には戻りたくないが。

「お気をつけて」
「ああ」
馬牙風(マァ・ヤーフォン)も怪我の無いように祈っております」
「有難う御座います」

 王美文(ワン・メイウェン)を始め、宮女たちが見送る。馬星星(マァ・シンシン)は今にも泣き崩れそうだ。

「絶対、帰ってきてね」
「はい。いってきます」

 手を振ると、ぶんぶん振り返された。馬星星がまた笑顔になるよう、早く帰ろうと決意する。

 大門を出ると、王都の民が何事かと振り向いた。そちらに任深持が手を振ってやれば、安心した様子で日常に戻っていく。

「馬で二日だが、急がず行こう」
「はい」

 王都を出るまではゆっくりと、そこからは馬が疲れない程度の速度で進んでいった。半刻して、塀で囲まれた門が見えた。

「まもなく隣国の領土に入る。軍が通る文は送っているが、混乱を避けるために王都には寄らずどこか休めるところを探すぞ」

 門を入り、道の途中で馬を休ませる。馬宰相が李友望(リィ・ヨウワン)の紙を取り出した。そこには東西南北が記された護符が貼られており、東を表す部分が光っている。

「まだ大分先ですね。この光の具合だと、やはり精霊が消えた場所に近そうです」
「東東山が超国の領土だと仮定して、その手前からいつ敵が現れても対応出来るようにしなければならないな」

 その時、夏晴亮が動き出した。

「任深持様!」
「どうした。何かあったか?」
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