後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
優しい先輩
「ど、どうしました……?」
急に風邪でも引いたのか。夏晴亮が恐る恐る馬星星に触れると、右腕を力強く掴まれた。
「どうしたも何もない! 何これ! 毒見師って! しかも宰相の名前入りって才国正式なものじゃない!」
「え、え」
怒っているのか焦っているのか、険しい顔の彼女に混乱する。任命書については読んでみたが、読めない箇所もあった。不利益なことが書いてあったのだろうか。
「だめでしたか? 第一皇子のお食事の毒見をするだけと聞いたのですが」
「毒見はだめでしょ! それで逃げ出した子何人もいるのよ! 後遺症が出て止めた子も……だから、最近は罪人か動物に食べさせてたのに、あの宰相、こんな職種を作るなんて許せない」
なるほど。読めない箇所の内容より、毒見自体がよくないらしい。宰相への評判が悪くなる前に誤解を解かねばならない。
「馬先輩、大丈夫です。毒ならすでに二回食べました。それでもほら、元気でしょ? だから大丈夫です」
「すでに食べたの!? 本当に!? まさか亮亮はすでに死んでいて、この亮亮は幽霊……!?」
しまった。余計に混乱させてしまった。馬星星に抱き着いてみせる。
「体に触れられるから幽霊じゃないです。なんか私丈夫みたいで、毒が効かなかったんです。美味しかったし、毒」
「おいしかったし……?」
馬星星がふらふらと寝台に座り込む。思った以上に毒が危険なことを、彼女の反応をもってして理解した。今後は気を付けた方がよさそうだ。馬星星が額に手を当てて言う。
「そう。つまり、あなたは毒の効かない体だから問題無いと、そういうことね」
「はい」
「じゃあ、死なない。危険なことはないってことね」
「はい」
「はぁ~~~~~~ッッ」
ついには寝台に寝転んでじたばたし始めた。夏晴亮が慌てる。
「大丈夫ですか!?」
「うん。まだ信じられないけど、いちおう。とりあえず亮亮が無事ならもうそれでいい」
「よかった。毒が皆さんに危険なものと知らず、ご心配お掛けしました」
「あら、そのお花は?」
湯呑みの花を問われて目を向ける。そういえば拾っていた。
「部屋の前に落ちてたんです。そのままにしていたら枯れちゃうし、せっかくなので飾ってみました」
「花瓶は無いのね。待って、私小さいのなら持ってたと思う」
籠の中から細い花瓶が取り出される。これなら湯呑みよりも伸び伸びと寛ぐことが出来るだろう。
「有難う御座います」
「いえいえ、それにしてもこのお花って」
「どうかしました?」
「この辺じゃ見ない種類だなって」
「へ~~」
一緒になって花を観察する。薄い桃色に白が混ざった優しい色をしている。鮮やかではないが、どの景色にも合うような。
「宮女の誰かが王都のお花屋で見繕ったのかしら」
馬星星でも検討がつかないのなら正解は導き出せない。とりあえず花瓶へと移し、その話題は終いとなった。
その日は掃除するだけで何事も無く済んだが、翌日からが大変だった。
掃除をしていると、どこからともなく官吏がやってきて、夏晴亮を観察するのだ。たまに話しかけてくる者もいる。触ろうとした者は近くにいた女官によって上に通報されていた。
「夏晴亮。毒見師に就任したというのは本当のようですね。物珍しさに男性陣が来ていますが、無視するように」
「はい」
「それと、何かされそうになったら大声を出しなさい。貴方にはその権利がある」
「恐縮です」
採用試験の時に会った女官だ。皆からは王先生と呼ばれていて、名字しか知らない。ぶっきらぼうだがとても仲間想いであるらしかった。
急に風邪でも引いたのか。夏晴亮が恐る恐る馬星星に触れると、右腕を力強く掴まれた。
「どうしたも何もない! 何これ! 毒見師って! しかも宰相の名前入りって才国正式なものじゃない!」
「え、え」
怒っているのか焦っているのか、険しい顔の彼女に混乱する。任命書については読んでみたが、読めない箇所もあった。不利益なことが書いてあったのだろうか。
「だめでしたか? 第一皇子のお食事の毒見をするだけと聞いたのですが」
「毒見はだめでしょ! それで逃げ出した子何人もいるのよ! 後遺症が出て止めた子も……だから、最近は罪人か動物に食べさせてたのに、あの宰相、こんな職種を作るなんて許せない」
なるほど。読めない箇所の内容より、毒見自体がよくないらしい。宰相への評判が悪くなる前に誤解を解かねばならない。
「馬先輩、大丈夫です。毒ならすでに二回食べました。それでもほら、元気でしょ? だから大丈夫です」
「すでに食べたの!? 本当に!? まさか亮亮はすでに死んでいて、この亮亮は幽霊……!?」
しまった。余計に混乱させてしまった。馬星星に抱き着いてみせる。
「体に触れられるから幽霊じゃないです。なんか私丈夫みたいで、毒が効かなかったんです。美味しかったし、毒」
「おいしかったし……?」
馬星星がふらふらと寝台に座り込む。思った以上に毒が危険なことを、彼女の反応をもってして理解した。今後は気を付けた方がよさそうだ。馬星星が額に手を当てて言う。
「そう。つまり、あなたは毒の効かない体だから問題無いと、そういうことね」
「はい」
「じゃあ、死なない。危険なことはないってことね」
「はい」
「はぁ~~~~~~ッッ」
ついには寝台に寝転んでじたばたし始めた。夏晴亮が慌てる。
「大丈夫ですか!?」
「うん。まだ信じられないけど、いちおう。とりあえず亮亮が無事ならもうそれでいい」
「よかった。毒が皆さんに危険なものと知らず、ご心配お掛けしました」
「あら、そのお花は?」
湯呑みの花を問われて目を向ける。そういえば拾っていた。
「部屋の前に落ちてたんです。そのままにしていたら枯れちゃうし、せっかくなので飾ってみました」
「花瓶は無いのね。待って、私小さいのなら持ってたと思う」
籠の中から細い花瓶が取り出される。これなら湯呑みよりも伸び伸びと寛ぐことが出来るだろう。
「有難う御座います」
「いえいえ、それにしてもこのお花って」
「どうかしました?」
「この辺じゃ見ない種類だなって」
「へ~~」
一緒になって花を観察する。薄い桃色に白が混ざった優しい色をしている。鮮やかではないが、どの景色にも合うような。
「宮女の誰かが王都のお花屋で見繕ったのかしら」
馬星星でも検討がつかないのなら正解は導き出せない。とりあえず花瓶へと移し、その話題は終いとなった。
その日は掃除するだけで何事も無く済んだが、翌日からが大変だった。
掃除をしていると、どこからともなく官吏がやってきて、夏晴亮を観察するのだ。たまに話しかけてくる者もいる。触ろうとした者は近くにいた女官によって上に通報されていた。
「夏晴亮。毒見師に就任したというのは本当のようですね。物珍しさに男性陣が来ていますが、無視するように」
「はい」
「それと、何かされそうになったら大声を出しなさい。貴方にはその権利がある」
「恐縮です」
採用試験の時に会った女官だ。皆からは王先生と呼ばれていて、名字しか知らない。ぶっきらぼうだがとても仲間想いであるらしかった。