明日に夢を見ようか。 不良になれなかった俺のギャラクシーノート
第1章 水に飢えた狼
「今夜こそ徹底的にやってやるぜ!」 「やれるもんならやってみろ!」
小さな町の何処にでも有るような廃工場の中で数人の男たちがいきり立った顔で睨み合っている。
鋼材があちらこちらに雑然と散らばった廃工場である。 その中で荒い息だけが生き物のように空中を這い回っている。
「やっちまえ!」 怒声が響いたかと思うとバットを振りかぶった男が飛び込んできた。
「舐めんじゃねえ! 叩き潰してやるわ!」 大乱闘が始まってしまった。
サングラスを吹き飛ばすやつ、口から泡を吹いて吹き飛ばされるやつ、応援も加わって誰が誰だか分からなくなってきた。
突き飛ばされて地面に転がるやつも居る。 鋼材に躓いて吹き飛ばされるやつも居る。
狭い廃工場の中は壮絶な戦場のようだ。 その時、、、。
「ヘッドライトだ!」 叫ぶ声が聞こえた。
もう何時間経っていたかは知らないが、誰かが警察を呼んでいたらしい。 廃工場を取り囲むように何台もパトカーが並んだ。
中の様子をじっと見詰めている。 大乱闘はまだまだ終わる気配が無い。
「飛び込め!」 数人の重傷者を確認した指揮官はそう命令した。
やがて警棒を振りかざした警官たちが突入していった。 その大乱闘の中にあいつが居たんだ。
俺が一生を捧げて惚れ込んだあの男が、、、。
喧嘩していたのはこの辺りのチンピラたちが寄り集まった剣狼会と獄導連合って言う突っ張り集団だった。
大沼健司は獄導連合の総長だった男だ。 チンピラと突っ張りが何をやらかしたのかって?
そいつは聞かないほうがいい。 一般人には縁も所縁も無い分かるようで分からないことだからさ。
大沼は何もしなかった。 いや、正確には何も出来なかった。
悪ガキってのは一人で掛かってくる分にはどうにだって出来るもんだ。
でもな、そいつが束になって掛かって来られたらどんな優れたやつでもどうしようもない。
結局さ、お互いに何人もケガ人を出して、何人も連れていかれちまった。
何処へ行ったんだって? 決まってるだろう、留置場だよ。
警察ってさ、表じゃ怖い顔してるけど、裏じゃあ諦めてるんだぜ、こいつら更正なんてしねえってな。
「お前さあ、いい加減に吐いちまえよ。 楽になりたいんだろう? 彼女だって待ってるんじゃないのか? さっさと吐いちまって終わらせちまいなよ。」
刑事だってそうやって追い詰めてくるんだ。 だから下っ端のやつらはさっさと吐いちまって「正当防衛でした。」って逃げてくるのさ。
ところがさ、大沼は違ったね。 下っ端の罪まで全部背負っちまった。
「やらかした責任を取る。」ってね。 それで懲役1年6か月、執行猶予3年で判を押してもらったそうだ。
その頃の俺は大沼なんて男は知らなかった。 その辺のいかれたギター弾きだった。
スナックなんかに行って酔っ払いに金を貰ってポロンポロンって弾いてやる。 おっさんたちは涙もろくなってるから昭和の話でもしてやると「兄ちゃん、もっとやってくれ。」って言ってくる。
ママさんだって酔いが回ってくるとボーっとした頭で涙ぐみながら聞いてくれる。 お礼にって水割りまで出してくれてさ。
そうやって小遣いを稼いでいたら大沼に会ったんだ。 悪い男だとは思わなかった。
執行猶予中だったからおとなしかったのか、(こいつがあんな大それたことをやるんかい?)って本気で思った。
その半年後、獄導連合が解散したって聞いた。 何で?
その話を持ってきたのは姉ちゃんだった。 実はさ、大沼さんと付き合ってて本人から聞いたんだって。
でも俺は何だか大沼さんには聞けなくて悶々としていた。 獄導連合と言えばこの辺のチンピラたちだって震え上がるくらいの団体だったんだ。
その中の一人、岩谷豪さんに聞いたことが有る。 「俺たちは不漁だから暴れてたんじゃないぞ。 間違ってる連中を叩きのめしてるんだ。」
周りから見れば命知らずのむっ鉄砲だよなあ。 でも的は違っていた。
正義感ぶってるわけじゃないけど、恐喝やってる連中とか子供を虐めてる連中とか見ていられなくて突撃したって言ってたな。
そんな連合が解散したんだよ。 信じられなかった。
大沼さんの執行猶予終了まではまだまだ時間が有る。 その間に次長だった結城五郎が解散の指揮を執ったんだ。
「いいか。 今夜は解散式をやる。 大沼総長は知っての通り、まだまだ動けない。 だから俺が仕切ることにした。
挨拶なんて要らない。 思う存分に飲んでくれ。 そして明日からの道をみんなで歩き出そうじゃないか。」
反対するやつは居なかった。 そもそも、なぜ解散したのかって?
それは大沼さんにしか分からねえよ。 俺は解散式の情報を姉ちゃんから聞いて見に行った。
知り合いのスナック 極楽城を一晩借り切って飲み放題食い放題のイベントをやったんだ。
「お、お前も来たか。 まあ飲んで行け。 金は要らねえから。」 岩谷さんは俺にも酒を出してくれた。
彼は高校時代の先輩で、怒らせると椅子でも何でも投げてくる危ない人なのだが、普段はめっちゃ優しいんだ。
それで俺も流しの世話をしてもらったってわけ。 「近藤、大沼さんに捧げるような歌って無いか?」
「大沼さんに捧げる歌ね、、、。 探しておきます。」 「執行猶予が解けたら祝いをやろうぜ。」
場が盛り上がってきたところで結城がマイクを取った。 「いいか、今夜は無礼講だ。 飲み食い制限無しだ。 そん代わり酔い潰れたら自己責任だからな。」
ドッと笑い声が起きた。 「近藤もたっぷり飲んで行け。」
「ありがとうございます。」 飲んでる時の岩谷さんってすごーーーーく機嫌がいいんだよなあ。
そんな時に怒らせようものなら体をズタズタにされちまうぞ。
集まってる連中はいつだって大沼さんと岩谷さんの右腕になりたがるやつばかり。
素手でも殴り掛かっていくような血の気の多い連中ばかりだ。 だから、この間の事件も後始末が大変だった。
警察から帰ってきた連中は数日と経たないうちに仕返しを計画していた。 それを岩谷さんが必死に抑え込んだ。
「今、お前たちが暴れたら総長は5年くらい帰ってこれなくなる。 ちっとはおとなしくしててくれや。」 暴れたい連中を宥めすかしてからやっと解散式に漕ぎつけたんだそうだ。
そこには少年課でお世話になりっぱなしの山本課長も居た。 「岩谷、よくこいつらを抑えられたな。」
「そりゃあ、課長さんがこれからはまっとうな人間になれって言ってくれたからですよ。」 「そうかそうか。 お前も変わったなあ。」
二人はホッとした顔でグラスを交わした。
これまでいろんなやつを叩きのめしてきた。 時には反撃されて大沼さんが重傷を負った。
「それでもよくここまでやってきたな。」 岩谷さんと結城が話し合っている。
そのうちに歌いだすやつが出てきてカラオケ大会が始まった。
小さな町の何処にでも有るような廃工場の中で数人の男たちがいきり立った顔で睨み合っている。
鋼材があちらこちらに雑然と散らばった廃工場である。 その中で荒い息だけが生き物のように空中を這い回っている。
「やっちまえ!」 怒声が響いたかと思うとバットを振りかぶった男が飛び込んできた。
「舐めんじゃねえ! 叩き潰してやるわ!」 大乱闘が始まってしまった。
サングラスを吹き飛ばすやつ、口から泡を吹いて吹き飛ばされるやつ、応援も加わって誰が誰だか分からなくなってきた。
突き飛ばされて地面に転がるやつも居る。 鋼材に躓いて吹き飛ばされるやつも居る。
狭い廃工場の中は壮絶な戦場のようだ。 その時、、、。
「ヘッドライトだ!」 叫ぶ声が聞こえた。
もう何時間経っていたかは知らないが、誰かが警察を呼んでいたらしい。 廃工場を取り囲むように何台もパトカーが並んだ。
中の様子をじっと見詰めている。 大乱闘はまだまだ終わる気配が無い。
「飛び込め!」 数人の重傷者を確認した指揮官はそう命令した。
やがて警棒を振りかざした警官たちが突入していった。 その大乱闘の中にあいつが居たんだ。
俺が一生を捧げて惚れ込んだあの男が、、、。
喧嘩していたのはこの辺りのチンピラたちが寄り集まった剣狼会と獄導連合って言う突っ張り集団だった。
大沼健司は獄導連合の総長だった男だ。 チンピラと突っ張りが何をやらかしたのかって?
そいつは聞かないほうがいい。 一般人には縁も所縁も無い分かるようで分からないことだからさ。
大沼は何もしなかった。 いや、正確には何も出来なかった。
悪ガキってのは一人で掛かってくる分にはどうにだって出来るもんだ。
でもな、そいつが束になって掛かって来られたらどんな優れたやつでもどうしようもない。
結局さ、お互いに何人もケガ人を出して、何人も連れていかれちまった。
何処へ行ったんだって? 決まってるだろう、留置場だよ。
警察ってさ、表じゃ怖い顔してるけど、裏じゃあ諦めてるんだぜ、こいつら更正なんてしねえってな。
「お前さあ、いい加減に吐いちまえよ。 楽になりたいんだろう? 彼女だって待ってるんじゃないのか? さっさと吐いちまって終わらせちまいなよ。」
刑事だってそうやって追い詰めてくるんだ。 だから下っ端のやつらはさっさと吐いちまって「正当防衛でした。」って逃げてくるのさ。
ところがさ、大沼は違ったね。 下っ端の罪まで全部背負っちまった。
「やらかした責任を取る。」ってね。 それで懲役1年6か月、執行猶予3年で判を押してもらったそうだ。
その頃の俺は大沼なんて男は知らなかった。 その辺のいかれたギター弾きだった。
スナックなんかに行って酔っ払いに金を貰ってポロンポロンって弾いてやる。 おっさんたちは涙もろくなってるから昭和の話でもしてやると「兄ちゃん、もっとやってくれ。」って言ってくる。
ママさんだって酔いが回ってくるとボーっとした頭で涙ぐみながら聞いてくれる。 お礼にって水割りまで出してくれてさ。
そうやって小遣いを稼いでいたら大沼に会ったんだ。 悪い男だとは思わなかった。
執行猶予中だったからおとなしかったのか、(こいつがあんな大それたことをやるんかい?)って本気で思った。
その半年後、獄導連合が解散したって聞いた。 何で?
その話を持ってきたのは姉ちゃんだった。 実はさ、大沼さんと付き合ってて本人から聞いたんだって。
でも俺は何だか大沼さんには聞けなくて悶々としていた。 獄導連合と言えばこの辺のチンピラたちだって震え上がるくらいの団体だったんだ。
その中の一人、岩谷豪さんに聞いたことが有る。 「俺たちは不漁だから暴れてたんじゃないぞ。 間違ってる連中を叩きのめしてるんだ。」
周りから見れば命知らずのむっ鉄砲だよなあ。 でも的は違っていた。
正義感ぶってるわけじゃないけど、恐喝やってる連中とか子供を虐めてる連中とか見ていられなくて突撃したって言ってたな。
そんな連合が解散したんだよ。 信じられなかった。
大沼さんの執行猶予終了まではまだまだ時間が有る。 その間に次長だった結城五郎が解散の指揮を執ったんだ。
「いいか。 今夜は解散式をやる。 大沼総長は知っての通り、まだまだ動けない。 だから俺が仕切ることにした。
挨拶なんて要らない。 思う存分に飲んでくれ。 そして明日からの道をみんなで歩き出そうじゃないか。」
反対するやつは居なかった。 そもそも、なぜ解散したのかって?
それは大沼さんにしか分からねえよ。 俺は解散式の情報を姉ちゃんから聞いて見に行った。
知り合いのスナック 極楽城を一晩借り切って飲み放題食い放題のイベントをやったんだ。
「お、お前も来たか。 まあ飲んで行け。 金は要らねえから。」 岩谷さんは俺にも酒を出してくれた。
彼は高校時代の先輩で、怒らせると椅子でも何でも投げてくる危ない人なのだが、普段はめっちゃ優しいんだ。
それで俺も流しの世話をしてもらったってわけ。 「近藤、大沼さんに捧げるような歌って無いか?」
「大沼さんに捧げる歌ね、、、。 探しておきます。」 「執行猶予が解けたら祝いをやろうぜ。」
場が盛り上がってきたところで結城がマイクを取った。 「いいか、今夜は無礼講だ。 飲み食い制限無しだ。 そん代わり酔い潰れたら自己責任だからな。」
ドッと笑い声が起きた。 「近藤もたっぷり飲んで行け。」
「ありがとうございます。」 飲んでる時の岩谷さんってすごーーーーく機嫌がいいんだよなあ。
そんな時に怒らせようものなら体をズタズタにされちまうぞ。
集まってる連中はいつだって大沼さんと岩谷さんの右腕になりたがるやつばかり。
素手でも殴り掛かっていくような血の気の多い連中ばかりだ。 だから、この間の事件も後始末が大変だった。
警察から帰ってきた連中は数日と経たないうちに仕返しを計画していた。 それを岩谷さんが必死に抑え込んだ。
「今、お前たちが暴れたら総長は5年くらい帰ってこれなくなる。 ちっとはおとなしくしててくれや。」 暴れたい連中を宥めすかしてからやっと解散式に漕ぎつけたんだそうだ。
そこには少年課でお世話になりっぱなしの山本課長も居た。 「岩谷、よくこいつらを抑えられたな。」
「そりゃあ、課長さんがこれからはまっとうな人間になれって言ってくれたからですよ。」 「そうかそうか。 お前も変わったなあ。」
二人はホッとした顔でグラスを交わした。
これまでいろんなやつを叩きのめしてきた。 時には反撃されて大沼さんが重傷を負った。
「それでもよくここまでやってきたな。」 岩谷さんと結城が話し合っている。
そのうちに歌いだすやつが出てきてカラオケ大会が始まった。
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