極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
別画面から『すみません、お待たせしました』という硬い声が響いてくる。急務で席を外していた武久さんがようやく戻ってきたのだ。

桃野さんがすっと人当たりのいい表情に戻ったので、私は内心ホッとした。

『とりあえず、お元気そうでなによりです。近況は資料フォルダにまとめておきましたので目を通しておいてください。作業の手順については別途添付します。質問があればお電話でもチャットでもお好きな方で』

「わかりました。いろいろとお気遣いいただきありがとうございます」

『いえ。美守さんが加わってくださると、私も大助かりで――』

ふと武久さんが『――と、失礼』と言葉を切った。珍しく目もとを緩めて、穏やかな笑みを浮かべる。

『今後は「祇堂さん」とお呼びするべきなんでしょうね。ついくせで』

「いえ。ふたりもいるとわかりにくいでしょうから、仕事中は旧姓でかまいませんよ」

それに旧姓と新姓を切り替えて使った方が、オンとオフのメリハリがあっていいだろう。

武久さんは眼鏡のブリッジをゆっくりと押し上げ『ではお言葉に甘えて、美守さん』とあらたまった。

< 263 / 267 >

この作品をシェア

pagetop