極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
気がつけばピンと背筋を張っていた。息を吐きながらシートにもたれかかる。

「もし道案内が必要になったら言ってください、地図を見ますから」

「ナビがあるからなんとかなるさ。今日は出だしから気を遣いすぎじゃない? もっと楽にいこう」

祇堂さんの微笑みに肩の力が抜ける。

たぶん私、空回っているんだわ。気を遣っているようで遣えていない。むしろ、遣われている。

失礼がないように旅行やドライブのマニュアルをたくさん読んできたけれど、やはり座学と実体験ではまったく違うようだ。

「助手席のナビゲートも至らず申し訳ありません」

「言っているそばから気を遣いだしたな」

青信号になり、祇堂さんが苦笑しながら運転を再開する。

私の気が回らないばかりに、楽しい旅行にならなかったら申し訳ない。

「その、お恥ずかしながら、私……初めてなんです。経験がなくて」

「は?」

祇堂さんが少々驚いた顔でこちらにちらりと目を向ける。

「旅行とか、ドライブとか」

補足すると、彼はなぜか声を裏返らせながら「ああ……そういうことか」とフロントガラスの向こうに目線を戻した。

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