冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした




「あ〜、花恋。来て来て」


手招きされて近づくと大きなA3用紙に印刷された携帯電話会社の比較表を渡された


「ありがとうございます」


見やすいように色分けされたそれは、大手から最近増えた格安まで並んでいる


「僕的にはココが一番お得だと思うよ」


お兄さんが選んだのは格安スマホだった


「ギガフリーにカケホがあれば無敵だと思うのと
あと、アドレスも今はキャリアメールも使わないし
それなら安いのが一番だと思う」


「ありがとうございます。よく見てみますけど
お兄さんのオススメが一番な気がしますね」


「そうよ〜花恋、朝陽はこういうのに長けてるからね」


笑顔でお兄さんを褒める向日葵さんが可愛い


「向日葵さんに相談して良かったです」


「よねっ」


「ここで、重要点」


イケメンなお兄さんが人差し指を立てた


「重要点ですか?」


「未成年者の契約には身分証と料金の引き落とし口座に加えて
親権者の同意書とその身分証も必要になるよ」


内心焦りながらも聞かされた事実に頷いてみせる


「色々ありがとうございました
頭に留め置きますね」


両親のいない未成年の私が生きていくには
乗り越えるものが沢山あるらしいことが分かった


「じゃあ朝陽はもう出てって」


「はいはい。じゃあ花恋ちゃん
妹をよろしくね」


「はい。こちらこそ
お兄さんもありがとうございました」


「もぉ〜。花恋は良い子過ぎるんだからぁ」


お兄さんが向日葵さんの部屋を出る前に向日葵さんにグイグイと手を引かれ


可愛らしいレースのカーテンが揺れる窓際のソファに腰掛けた


「さて」


「?」


「もう落ち着いたの?」


「えっと?」


「いや〜ね〜。犬のことよ」


「向日葵さん。何度も言いますが犬ではありませんよ」


「じゃあ駄犬にするっ」


腹を立てているのが私を思ってのことだと分かっているだけに不謹慎だけど嬉しい


「駄犬も犬ですよ」


「もう聞き流してっ」


両手を合わせたお願いポーズに
「フフ」笑いが出た


「ハッチとはもう会いませんよ
元々図書館で会っただけなので
行かなければ会うこともないでしょう」


「もう行かないの?」


「もう行きません」


「図書館好きなのに?」


「本は平日に借りることにしました」


「じゃあ決意は固いのね」


「まぁ、そうなりますね」


「あれからショボショボにもなってないし
瞬殺で忘れてるってことなら良い傾向だわ」


「瞬殺。フフ」


忘れる訳ない


事あるごとに思い出してはハッとする


現に此処へ来る時も何度もハッチを思い浮かべては胸の苦しさに耐えていたのだから




< 39 / 113 >

この作品をシェア

pagetop