冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした



デザートもハッチと協力して完食したあとは


ソファに並んで座って壁にかかる大きなテレビを眺める
映し出されるのは地上波の放送ではなくて青い海の映像とヒーリング音楽

解説もなにもない映像を眺めるだけなのに
その深い青さに心が凪いでくる


「海が好き?」


「花恋が好き」


「・・・」


上手い切り返しが思いつかなくて言葉に詰まる


「コメントしろよー」


肩に手を回していたハッチがコツンと頭をぶつけて体重を乗せてきた


「ちょっと重いです」


「俺の気持ちがか?」


「フフ」


「俺、ヤバいな
なんか。花恋が此処に居るってだけで嬉しくてしかたねぇ」


「怪我人だし、熱は出すしで
お世話しかかけてませんけど」


「それでもだ」


「喜んで頂けて私も嬉しいです」


「なぁ花恋」


「ん?」


視線を合わせた途端、伸びてきた手が頬に熱を与えてくる


「キスしていいか?」


「・・・っ」なんで聞くんだろう
ものすごく返事し難いのに

無口無愛想他人に興味なしのハッチは何処へ・・・


「なぁ」


頬から伝わる熱が、じわりと私の熱をあげた


「・・・・・・はい」


いつもより優しいハッチの深い緑の瞳に、少し眉を下げた私が映っていて


ありえない速さで打つ鼓動を遠くで聞きながら


そっと目を閉じた


触れるだけの口付けは一度だけ
フワリと抱きしめられてハッチの匂いに包まれる


「俺な」


「うん」


「これまで他人のことなんて本当にどうでも良かったんだ」


「無口無愛想他人に興味なしのハッチですね」


「確かにそうだと思えるから、他人の評価は流石だ」


「私は一度もハッチをそんな風に思ったことないんですけどね」


「不思議だろ、女なんて警戒の対象なのに
花恋はそばに居てほしいって思った」


「ブランケットの力でしょうか」


「それもキッカケだろうな」


「返してもらってないんですけど」


「返さねぇっつったろ」


「横暴」


「今夜からは花恋と一緒だから貸してやっても良いぞ?」


「上からですよね」


「俺のだからな」


「フフ」


ハッチの声が頭の上から聞こえると同時に身体から振動でも伝わる


さらには早い鼓動も相俟って私の心拍数も上げるからハッチと居ると忙しい


「俺が無口で無愛想でも、花恋は思ってることや感じたこと
良いことや悪いことも全部。遠慮せずに教えて欲しいんだ」


「善処します」


「模範解答だな」


「フフ」


「例えば俺に苛立ったりしたら迷わず全部打つけて欲しい」


「大喧嘩になりませんかね」


「想いを打つけ合う方が口を聞かねぇより全然良いだろ」


「確かに、そうですね」


「花恋と喧嘩する気もしねぇが。俺の思いを知って貰おうと思ってな」


「はい」


ハッチは頭を撫でると身体を離した


“キス”から急にこんな話になるなんて、何かあったのだろうか


そっと見上げたハッチと目が合った











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