純潔嗜好男子
そして秘書業務に定時などは存在せず、通常業務の他に、他社の上役方の接待に同席したり、休みの日なども呼び出されれば、出先であろうとも駆り出される。
そこで解ったのは、社長はバツイチで今の住居は元々家族で住んでいたらしいのだが、元奥様が離婚を機に子供を連れて出ていってしまったとのこと。
そんな元嫁との間には、超絶我儘な娘が居た。
「ねえ間宮さん。パティスリー・ドルチェのタルトを買ってきてくれる?それに合う紅茶も宜しく。」
「はい。かしこまりました。」
社長の娘は私と同い年らしいのだが、就職などせずに自由気儘に遊んで暮らしているらしい。
そんな娘を咎めることなどしない父親は、愛する我が子に毎月十分過ぎるお小遣いを与えている。
一方母親の方は、既に再婚しているらしいのだが、私は一度もお会いした事がない。
休日に呼び出しを食らう際は、決まって親子の会であり、この女の我儘に従うしかない私は、渋々と買い出しに出掛けに行くのだ。
そして買い物を終えて、わざとひと休憩と称してサボった後に、戻ってくれば我儘娘が吠えて馬鹿親父に詰め寄っている。そんな場面を目撃するのは日常茶飯事というわけで…。
ある日の勤務中、車で移動をしていると、社長が娘の結婚がどうちゃらと話し始めた。
やれ、娘に良いと思った縁談話は、その場でひと蹴りにされただとかで、結婚したい相手が何人か居るだとかで、その相手とどうしてもお近付きになりたいらしい我儘娘が、父親のコネを使って接触を図っているらしいのだ。
だがしかし、親バカの社長でもその相手様とやらは天と地との差があるらしく、どうにかしたいものだと落胆しながら愚痴を溢す。
「でね、間宮くんに頼みがあるんだが…」
ここまでで嫌な予感はしていたのだ。
ーーー・・・それから数日後、金曜日の夕方に私は久しぶりに定時で上がることになった。
一度帰宅し、スーツを脱いで自分が持っている服の中で一番派手だと思う服装に着替え、化粧を直してからとある場所へと向かった。
人混みで賑わう夜の街で、指定された場所で待ちぼうけていると、颯爽と現れた超絶ド派手な女の姿。
海外女優ばりに巻かれた金髪を揺らし、辺りは薄暗いのにサングラスを掛けて、超々ミニスカなブランド物のブラウンチェックのワンピース姿。
素足をこれでもかと披露し、足元は十数センチはくだらないハイヒール。もちろんゴテゴテにキラキラしたそれは、この街に釣り合っているのだが…まあ何せ派手すぎて、この人物が待ち人だとは思いたくもない風貌。
それがズカズカと器用に迫り来ると、彼女はサングラスに手を掛けて、くいっと目元を露わとする。
「やっほー間宮さん。今日は宜しくね〜。」
いつも以上に上機嫌なお嬢様の参上だ。
社長の頼みで我儘娘の監視役兼、今宵の催しの同伴者として任命された私。
つい先週までは、少し落ち着いていた筈の髪色が、ド派手に変身してしまっているのは、きっとこれから出会うことになるだろう人物に、少しでも記憶に残るようにという魂胆が見え見え
なのである。