純潔嗜好男子
ド派手な演出と共に現れたビキニ姿のシャンパンガール達に驚きを隠せず、呆気に取られていれば、あれよあれよと特大クラッカーが発射されて、キラキラの紙吹雪が宙を舞う。
花火を散らしながら運ばれてきたボトルがテーブルに置かれると、杏奈はさっと腕を伸ばして直ぐにコルクを吹き飛ばした。
いつのまにか辺り一体が人で埋め尽くされ、羨む男女からの視線が突き刺さる。
「はい。」と抜いたボトルを差し出してきた杏奈にやっと我に返ると、私は直ぐにグラスにお酒を注いだ。
普段親子会に立ち会うが、酒を交わすこともなく、常に忙しい我が身、久しぶりの同い年との飲みの席には何故かこの女。
遅寝早起きが日課な私は、接待以外の飲みの席を極力控えて、友達からの誘いも断り続けていた。
あぁ…これが友達だったならば、懐かしい話や近況なんかの愚痴大会を始めて、笑い転げている頃か。
なんで私がこんな女と…。
「今更だけど間宮さんって下の名前なんて言うの?」
本当に今更だ。父親の秘書で従順な女。そんな印象しかないだろうに、グラス片手に乾杯を催促してきた我儘娘は、今だけは対等に私を見ている気がした。
カチンとぶつかったグラス。気泡がブワッと浮き上がり何とも綺麗な光景。
杏奈がそれを口に含むと、それに続けて飲み込んだ。
「改めまして、志歩です。」
本当ならここでどうぞ宜しくなどと手を差し出すのだろうが、やはりぶっきらぼうに「ふ〜ん。」と返ってきたので上げかけた腕を抑えた。
極々一般的で平凡な家庭で育った私とは違う世界の住人。
今までそこそこのお金持ちの同級生も居たが、ここまで性根が腐ってる子は、まあ居なかった。
何というか、大企業クラスになればそれなりに性格がひん曲がるんだろうな。
あの親あってこの子在りってのは頷ける。
でも、家庭の事情ってのも左右されるから、一概に彼女が悪いとは言い切れない。
この子からすれば、私の方が変わり者だと思われてるかもしれないし、価値観が違う人間が居て当たり前なのだ。
それを許せるか許せないかで、連む人は変わってくる。
そう考えていれば、いつの間にやらフロアの女の子たちが一斉に動き出した。
「…来たわね。」
杏奈はそう言うと、立ち上がりその場から去ってしまった。
あ…と、手を伸ばして止めようとしたが、人混みに消えていった彼女の姿は、この暗がりでは見当も付かず、面倒だからこのままこの場で待つことにした。
チビチビと大して美味しくもないシャンパンを飲み進め、ぼーっと過ごしていれば、通りがかりの男の子たちに声を掛けられるが、「仕事中なので、」と聞こえてるのか定かではない爆音流れるフロア。
勤務外だけど、仕事中って…これは残業代が出るのか?それとも特別出張費扱い?
親バカの所為で、同い年の女の世話を任され…世の中には独り立ち出来ない大人も居るのだなと再認識し、そんな奴等に扱き使われる弱者な自分に嫌気がさす。
こんな筈じゃなかったのになと、やっぱり上っ面だけの仕組み。裏返してみれば見えてくる黒い部分。
…上司が辞めたのは、きっとコレに嫌気がさしたからからなのかな。
「はぁ…つまんない。」
そう溜め息混じりに吐き出せば、どシリと少しだけソファー沈み、気付いた時には肩に腕を回されていた。
「んな!?」と驚きを隠せず、感じた人肌に鳥肌が立ち、振り向けば知らぬ顔の男が真横に座っていた。