純潔嗜好男子
まだまだ行きそうにない男を横目に、気不味さからグラスの中身を飲み干しては、継ぎ足しを繰り返していれば、身体はポカポカ。
それにしても眠いな。杏奈はいつ戻ってくるのやら、それとも例の人たちに接触することが成功して楽しくやってるのだろうか。
それならそれで良いのだが、いつまでここで待機してれば良いのか検討も付かない。
隣から佐藤ちゃんと声が掛かれば、適当に返事をしていれば、いつの間にやらちらほらと女の子たちがこっちに戻ってきていた。
すると、「あれ、こっちに居るよ!?」とわらわらと群がり始めた女の子たち。
なんだなんだと視線を配らせれば、「いいな〜。」と至近距離で羨ましがられる始末。
…ん?こいつか?と隣を見れば、「どうしたの?」とまたトロンとした甘い声。
これ見よがしに、男の顔がこれ以上に迫ってきて、鼻息が掛かる距離まで迫り来る。
奴の高い鼻で満を持して接吻は免れるが、まあ見る角度に寄っては、「キャー‼︎」と騒がれる始末。
私は男の瞳を睨み付けてるが、まるで分かっててやってるみたいに、奴の唇が弧を描く様を捉えた。
「あの…」
「なに?」
「凄く迷惑なので離れていただいてもいいですか?」
「なんで?」
「知らない男に、いきなり迫られたら、どんな女性でも鳥肌ものですよ。」
「言うね〜。」
そして男は、ククッと肩を振るわせながら笑っていた。
払い除け様にも肩を掴まれてるし、やるなら頬をビンタする他ないのか?
でも、後で訴えられたら困るしな…。
どうしたものかと静止していれば、「佐藤ちゃん強敵だわ。もしかして遊び慣れてる?それともその逆だったり…。」妖美に動く口元に、ごくりと喉を鳴らす。
男慣れ…してると言えば嘘になる。彼氏いない歴何年だ?でも仕事に明け暮れて主に男性(人生の先輩)ばかり相手にしてたものだから、セクハラは当たり前。動揺しない振りはお手のもの。
「とりあえず私まだ仕事中なんで、迷惑です。」
そうきっぱりと告げれば、「はいはい。わかったよ〜。」とお手上げ状態の様子でやっと私の身体が解放された。
でもやっぱりこの場から離れようとしないので、思わず尋ねる。
「まだ居るつもりですか?」と…。
「だって、君が困ってる顔を見てみたいからね。」
「性格悪いですね。」
「そりゃどうも。で、仕事何時まで?」
「知りません。お嬢さんが帰ると仰ったら送り届け、そこで今日は終了ですかね。」
「ふ〜ん。次はいつ会える?」
「知りませんよ。多分二度とないかと…」
そんな台詞を吐き捨てたタイミングで、「あれ!?なんでここに居るんですか?」と今まで一度だって聞いたことのない猫撫で声が頭上から降ってきたのだ。
杏奈の帰還に直ぐに気付いた私は、パッと顔を向けると、彼女のヘアセットはぐちゃぐちゃになっていて、恐らく密集地でもみくちゃにされた所為なのだと察する。
そんな杏奈が目をハートにして見つめる先には、隣の男の姿。
「この子が連れ?」と杏奈には聞こえないくらいの声で尋ねてくるものだから、私は「はい。そうです。」と小声で返した後に、「杏奈さんおかえりなさい。」と彼女へと声を掛けた。
「志歩ちゃんもっとズレて?」
…はい?と初めて呼ばれた自分の名前と共に、こんなに好印象な声色に驚きつつ、言われるがままにコの字のソファの奥へとお尻を滑らせると、「お隣失礼しまーす!」と杏奈は豪快に男を押して無理矢理隣を陣取り始めた。