落ちこぼれ魔術師なのに、王子殿下の家庭教師に任命されまして。〜なぜ年下殿下から甘く口説かれているのでしょう?〜
14
「そもそもアドは何で騎士団で訓練をしているんですか?」
アドとアークの模擬試合が始まったので、私は隊長さんと並んで見ている。
「ああ、元々、俺は幼少期の殿下たちの剣の指南役だったんだ」
「ええ!」
さらりと隊長さんが凄いことを言った。
(殿下たちって……ヘンリー王太子殿下もだよね。す、凄い人なんだ)
驚く私に隊長さんはにぱあ、と笑って続けた。
「ま、魔力量が無くて騎士団に飛ばされたわけだけど」
ガハハ、と隊長さんが笑う。
「でも、剣の腕を買われているから隊長を任されているんですよね?!」
魔力量が無いからといって、能力のある人を蔑ろにするこの国には辟易とする。
「ミュー嬢は、騎士団を好いてくれてるんだな」
「尊敬してます!」
豪快な笑顔から優しい笑顔に変わった隊長さんに私は即答した。
「……ミュー嬢がアドの家庭教師になってくれて本当に良かった」
隊長さんは眉尻を下げてそう言うと、明るい口調で続けた。
「アドは俺を追って騎士団に通った。まあ、それがバレて、アイツは魔法学校に押し込められて軟禁状態だった。魔力の暴走と反抗的なアイツの態度に、父である国王陛下もついには匙を投げて、あいつはほっとかれるようになった。そこから、アイツは夜に魔法学校の寮を抜け出してここに来るようになったんだ。アドの魔力なら抜け出すことくらい訳無いんだろうな」
アイツらしいなあ、と思うと同時に、王族として生きる彼の孤独が垣間見れた。
「アドに居場所があって良かった……」
「おかげで不良王子って呼ばれてるけどな」
私の言葉に隊長さんは嬉しそうに言うと、ガハハ、と笑った。
「アドはアークに一生感謝しないとだな。あの夜、ミュー嬢を引き止めたのはアイツだから」
「ほっとかれたと思ったら、今度は魔法省に閉じ込められる所だったんですね、アドは」
「アドが自分で決めたことだったがな。それが俺たちのためなのは嬉しいが、魔術師団にアイツをやるのが心配だった。だから、ミュー嬢には感謝しているよ。あいつの楽しそうな顔、久しぶりに見た」
まるで兄のような目で訓練場に視線を向ける隊長さんに心がじわりと温かくなった。
(そうだといいな)
隊長さんが言ってくれた言葉を反芻する。
つまらなさそうに、不満そうな瞳をしていたアドが、年相応に笑うのが、私も嬉しい。魔法学の、私との勉強がその一端になってたらいいな、と私は思った。
「それにしても……」
アドとアークの剣の打ち合いを見て改めて思う。
「あんな激しい打ち合いの中、魔法の構築なんて難しいですよね……?」
さっき見た騎士団員とよりも、素早く、激しい打ち合いをする二人を見て、私は隊長さんに恐る恐る聞いた。
「まあ、アークは騎士団一の腕の持ち主だからなあ! それに、魔法騎士団はそれは見事に連携して魔物を打ち払っているらしいぞ!」
「らしい?」
「魔法騎士団単独の仕事は見たこと無いからなあ。俺たちが駆り出される時も、魔術師団の連中と組まされることが多いしなあ」
隊長さんの説明にそっか、と思う。魔法騎士団は一部のエリート集団。魔術師団と違って良い人も多いけど、私も武器のメンテナンスや納品でしか見ることは無い。雲の上の人たちなのだ。
(副団長かあ……)
改めて、アドとは住む世界が違うんだなあ、と思った。家庭教師が終わったら、アドとの接点は無くなるのだろう。
(副団長を育てた家庭教師として実績を上げれば、また魔法学校で雇ってもらえるかもだしね!)
アドに絆されたせいで、別れの時を思うと寂しい、なんて思ってしまった自分に喝をいれる。
「アドは努力家で、剣の腕も良いのに、膨大すぎる魔力のせいでコントロールが出来ないらしくてなあ。平時なら良いが、あんな風に剣を交えながらだと加減なんて難しいんだろうなあ」
隊長さんの言葉にハッとする。
確かに、アドの魔力のコントロールには正確な呪文の詠唱が必須だ。
私はううーん、と頭を悩ませる。
「まっ、一番はあの癇癪なんだけどな。それはミュー嬢のおかげで落ち着いてるみたいだし?」
「は?」
隊長さんが理由もわからないことでニヤニヤとしていたので、私は思わず怪訝な顔を見せた。
「ははっ! ミュー嬢はそのままでアドをよろしくってこと!」
「はあ……」
何故か大笑いする隊長さんに首を傾げながらも、一応返事をした。
「アドはさー、昔からヘンリー殿下と比べられたり、男女問わずアイツの権力にすり寄って来る連中のせいで荒れててねえ」
「イリス……私の親友もそんなこと言ってました」
あの時は、王子様も大変だ、と他人事のように思っていた。まさか家庭教師になるなんて夢にも思っていなかった。
「俺も変わらずアドには騎士団として、元師匠として協力するよ。だからミュー嬢もアイツのこと、よろしくな?」
隊長さんに改めてそう言われ、私は満面の笑みで元気よく「はい」と返事をした。
「私たち、アドの師匠コンビですね!」
ニコニコと隊長さんに笑いかければ、彼は頭をボリボリとかいて私の後ろに視線をやった。
「あー……、アド、誤解すんなよ? これは違う」
「へっ? アド?」
苦笑いする隊長さんの視線を追うように後ろを振り返れば、いつの間にかアドが不服そうな顔で立っていた。
アドとアークの模擬試合が始まったので、私は隊長さんと並んで見ている。
「ああ、元々、俺は幼少期の殿下たちの剣の指南役だったんだ」
「ええ!」
さらりと隊長さんが凄いことを言った。
(殿下たちって……ヘンリー王太子殿下もだよね。す、凄い人なんだ)
驚く私に隊長さんはにぱあ、と笑って続けた。
「ま、魔力量が無くて騎士団に飛ばされたわけだけど」
ガハハ、と隊長さんが笑う。
「でも、剣の腕を買われているから隊長を任されているんですよね?!」
魔力量が無いからといって、能力のある人を蔑ろにするこの国には辟易とする。
「ミュー嬢は、騎士団を好いてくれてるんだな」
「尊敬してます!」
豪快な笑顔から優しい笑顔に変わった隊長さんに私は即答した。
「……ミュー嬢がアドの家庭教師になってくれて本当に良かった」
隊長さんは眉尻を下げてそう言うと、明るい口調で続けた。
「アドは俺を追って騎士団に通った。まあ、それがバレて、アイツは魔法学校に押し込められて軟禁状態だった。魔力の暴走と反抗的なアイツの態度に、父である国王陛下もついには匙を投げて、あいつはほっとかれるようになった。そこから、アイツは夜に魔法学校の寮を抜け出してここに来るようになったんだ。アドの魔力なら抜け出すことくらい訳無いんだろうな」
アイツらしいなあ、と思うと同時に、王族として生きる彼の孤独が垣間見れた。
「アドに居場所があって良かった……」
「おかげで不良王子って呼ばれてるけどな」
私の言葉に隊長さんは嬉しそうに言うと、ガハハ、と笑った。
「アドはアークに一生感謝しないとだな。あの夜、ミュー嬢を引き止めたのはアイツだから」
「ほっとかれたと思ったら、今度は魔法省に閉じ込められる所だったんですね、アドは」
「アドが自分で決めたことだったがな。それが俺たちのためなのは嬉しいが、魔術師団にアイツをやるのが心配だった。だから、ミュー嬢には感謝しているよ。あいつの楽しそうな顔、久しぶりに見た」
まるで兄のような目で訓練場に視線を向ける隊長さんに心がじわりと温かくなった。
(そうだといいな)
隊長さんが言ってくれた言葉を反芻する。
つまらなさそうに、不満そうな瞳をしていたアドが、年相応に笑うのが、私も嬉しい。魔法学の、私との勉強がその一端になってたらいいな、と私は思った。
「それにしても……」
アドとアークの剣の打ち合いを見て改めて思う。
「あんな激しい打ち合いの中、魔法の構築なんて難しいですよね……?」
さっき見た騎士団員とよりも、素早く、激しい打ち合いをする二人を見て、私は隊長さんに恐る恐る聞いた。
「まあ、アークは騎士団一の腕の持ち主だからなあ! それに、魔法騎士団はそれは見事に連携して魔物を打ち払っているらしいぞ!」
「らしい?」
「魔法騎士団単独の仕事は見たこと無いからなあ。俺たちが駆り出される時も、魔術師団の連中と組まされることが多いしなあ」
隊長さんの説明にそっか、と思う。魔法騎士団は一部のエリート集団。魔術師団と違って良い人も多いけど、私も武器のメンテナンスや納品でしか見ることは無い。雲の上の人たちなのだ。
(副団長かあ……)
改めて、アドとは住む世界が違うんだなあ、と思った。家庭教師が終わったら、アドとの接点は無くなるのだろう。
(副団長を育てた家庭教師として実績を上げれば、また魔法学校で雇ってもらえるかもだしね!)
アドに絆されたせいで、別れの時を思うと寂しい、なんて思ってしまった自分に喝をいれる。
「アドは努力家で、剣の腕も良いのに、膨大すぎる魔力のせいでコントロールが出来ないらしくてなあ。平時なら良いが、あんな風に剣を交えながらだと加減なんて難しいんだろうなあ」
隊長さんの言葉にハッとする。
確かに、アドの魔力のコントロールには正確な呪文の詠唱が必須だ。
私はううーん、と頭を悩ませる。
「まっ、一番はあの癇癪なんだけどな。それはミュー嬢のおかげで落ち着いてるみたいだし?」
「は?」
隊長さんが理由もわからないことでニヤニヤとしていたので、私は思わず怪訝な顔を見せた。
「ははっ! ミュー嬢はそのままでアドをよろしくってこと!」
「はあ……」
何故か大笑いする隊長さんに首を傾げながらも、一応返事をした。
「アドはさー、昔からヘンリー殿下と比べられたり、男女問わずアイツの権力にすり寄って来る連中のせいで荒れててねえ」
「イリス……私の親友もそんなこと言ってました」
あの時は、王子様も大変だ、と他人事のように思っていた。まさか家庭教師になるなんて夢にも思っていなかった。
「俺も変わらずアドには騎士団として、元師匠として協力するよ。だからミュー嬢もアイツのこと、よろしくな?」
隊長さんに改めてそう言われ、私は満面の笑みで元気よく「はい」と返事をした。
「私たち、アドの師匠コンビですね!」
ニコニコと隊長さんに笑いかければ、彼は頭をボリボリとかいて私の後ろに視線をやった。
「あー……、アド、誤解すんなよ? これは違う」
「へっ? アド?」
苦笑いする隊長さんの視線を追うように後ろを振り返れば、いつの間にかアドが不服そうな顔で立っていた。