落ちこぼれ魔術師なのに、王子殿下の家庭教師に任命されまして。〜なぜ年下殿下から甘く口説かれているのでしょう?〜
21
「えーっと……何でこうなった?」
魔術師団棟の中にある、訓練場に初めて入った私は記憶を整理する。
『なら証明してもらおうかな?』
不敵に笑ったアドは、私とクリスティーが魔法で対決することを提案した。
クリスティーは顔を引きつらせていたけど、魔術師団たちは薄ら笑い、私をバカにした目で見た。
「研究棟の奴とクリスティー嬢が?」
「殿下は気でも狂われたのか」
「そんなもの勝負にならない」
そんなことが囁かれ、あちらの勝利は決まったかのような空気で、今ここにいる。
「クリスティーは俺の大切な婚約者だ。それに彼女は治癒の魔法にこそ長けているから戦いには向いていない」
クリスティーを庇うようにアンリ様が私の前に歩み出る。
「俺が相手になる。それでミュリエルが負けたら、家庭教師をクリスティーに譲るんだ」
「なっ?!」
アンリ様のとんでもない発言に私は口をあんぐり開けた。
クリスティーが治癒魔法に長けているのは知っている。だからこそ、彼女の攻撃魔法ならばかわし、勝つことが出来ると思っていたのだ。
「卑怯じゃありません?」
「何を言っている。殿下の家庭教師を務めるならば、俺くらい倒せなくてどうする」
クリスティーのことは棚に上げ、アンリ様が悪びれずに言う。
(てか、それでアンリ様が勝ってクリスティーが家庭教師をやるっておかしくない?! 自分で勝ち取りに来なさいよね!)
アンリ様の後ろで殊勝な顔を見せるクリスティーは、私と目が合うと、勝ち誇ったように笑った。
(何でもかんでもアンリ様はあなたの思い通りってわけね)
さて、どうしようか、と思う。
アンリ様は残念な人だが、腐ってもクラリオン伯爵家の次男である。それなりの魔力量を持った魔術師だ。
彼の攻撃を防ぐくらい訳ないが、圧倒的な魔力量の差で、こちらが攻撃を仕掛ける余裕は無さそうだ。魔力切れで負けるのが目に見えている。
「俺の家庭教師を甘く見んなよ。目にもの見せてやる」
「ほお?」
「ちょ、ちょ、ちょっ…!!」
アドがアンリ様を煽るので慌てて彼を掴んで、離れた所へ連れて行く。
「ちょっと!! 何言ってるのよ?!」
アドを解放した私は彼に怒鳴った。
「んだよ、俺の攻撃をかわせるんだから、あんな奴くらい秒だろ」
「防ぐだけならね!」
不貞腐れるアドに私は抗議を続けた。
「魔力量の差がありすぎる! 私……アドの家庭教師、辞めたくないよ?!」
情けないことに弱音を吐いてふにゃ、っとした表情で泣きそうになる。
つい、掴んだアドのシャツの裾に力が入ってしまう。
『俺の家庭教師はミュリエルだけだ』
そう言ってくれたのに。アドは私が家庭教師を辞めさせられても良いの?そんな不安で情けない顔をしてしまう。
するとアドは私の手を取って、ふわりと笑った。
「お前なら勝てる」
「……買いかぶりすぎだよ……本当に魔力量じゃ勝てないもの」
自信たっぷりのアドに対して私はさっきから情けない姿ばかり見せている。家庭教師であり続けたいと願うのに、弱気な自分しか出て来ない。
魔力量重視なこの国のことを、クソ食らえ、とは思う。でも実際にどんなに正しくて的確な魔法陣や詠唱を重ねても、持久戦になれば負けるのだ。
「俺がついてる」
アドはそう言うと、私の首に鎖をかけた。
「ネックレス……?」
かけられた鎖の先を見れば、眩しいばかりのエメラルドグリーンの石が付けられていた。
「これ……」
イリスの研究を手伝っていたからわかる。
(これ、魔法石だ……)
「俺の魔力、こめといた」
見つめた先のアドの表情がにやりと勝ち誇る。
「俺の魔力と、お前の知識があれば、向かうところ敵なしだろ?」
勝ちを確信した、アドの表情。
「俺の家庭教師は最強だってこと、魔術師団連中に見せつけてこい」
高鳴る高揚感に、私は思わず笑顔になる。
そんな私を見たアドにトン、と背中を押された。
「行って来い」
「うん!」
振り返らずに、でも力強く返事をした。
「別れは済んだのか?」
訓練場で待ち構えていたアンリ様が勝ち誇ったように言う。
「ええ。あなたとのね!」
「言ってろ!」
私の言葉をきっかけに、アンリ様が先制攻撃をしかけた。
(流石、卑怯者ね!)
私は瞬時にアンリ様の魔法を防御魔法で跳ね返す。
「なっ――?!」
アンリ様は驚いた表情を見せた。
思えば、アンリ様と魔法で手合わせをするのは初めてだ。魔法学校の実技は男女別だし。
「このっ……」
すぐに攻撃魔法を連発するアンリ様の魔法陣の軌道を読み、的確な防御魔法を張る。
(アドに比べたら、何て単純な軌道!)
改めて私の教え子凄い、と思いながら、アンリ様の魔法を次々に無効にしていく。
「アンリ様?! 遊んでいらっしゃるの? 早く片付けて!」
クリスティーの叫ぶ声が聞こえると、アンリ様は「くそっ」と苦しそうな表情で魔法を連発する。
「ミュリエルの魔力量は少ないんだ! すぐに魔力切れになるだろ!」
ドン、ドン、と単純な攻撃魔法を繰り返すアンリ様。
(これでよく偉そうにふんぞり返ってるわよね。騎士団の皆の方がよっぽど動けるわよ)
確かにここまでされたら、いつもの私なら魔力切れになる。でも――――
私は胸元のネックレスの石をぎゅう、っと握りしめる。
温かな光が私に力をくれる。
アンリ様の攻撃魔法を全て打ち消すと、間も与えず、私は攻撃魔法を繰り出した。
ドオン、という大きな音と砂埃が舞った。
観衆にいた魔術師団員たちは目を丸くして、野次っていたその口を噤んだ。
砂埃が収まり、私の足元にはアンリ様が倒れていた。
魔術師団棟の中にある、訓練場に初めて入った私は記憶を整理する。
『なら証明してもらおうかな?』
不敵に笑ったアドは、私とクリスティーが魔法で対決することを提案した。
クリスティーは顔を引きつらせていたけど、魔術師団たちは薄ら笑い、私をバカにした目で見た。
「研究棟の奴とクリスティー嬢が?」
「殿下は気でも狂われたのか」
「そんなもの勝負にならない」
そんなことが囁かれ、あちらの勝利は決まったかのような空気で、今ここにいる。
「クリスティーは俺の大切な婚約者だ。それに彼女は治癒の魔法にこそ長けているから戦いには向いていない」
クリスティーを庇うようにアンリ様が私の前に歩み出る。
「俺が相手になる。それでミュリエルが負けたら、家庭教師をクリスティーに譲るんだ」
「なっ?!」
アンリ様のとんでもない発言に私は口をあんぐり開けた。
クリスティーが治癒魔法に長けているのは知っている。だからこそ、彼女の攻撃魔法ならばかわし、勝つことが出来ると思っていたのだ。
「卑怯じゃありません?」
「何を言っている。殿下の家庭教師を務めるならば、俺くらい倒せなくてどうする」
クリスティーのことは棚に上げ、アンリ様が悪びれずに言う。
(てか、それでアンリ様が勝ってクリスティーが家庭教師をやるっておかしくない?! 自分で勝ち取りに来なさいよね!)
アンリ様の後ろで殊勝な顔を見せるクリスティーは、私と目が合うと、勝ち誇ったように笑った。
(何でもかんでもアンリ様はあなたの思い通りってわけね)
さて、どうしようか、と思う。
アンリ様は残念な人だが、腐ってもクラリオン伯爵家の次男である。それなりの魔力量を持った魔術師だ。
彼の攻撃を防ぐくらい訳ないが、圧倒的な魔力量の差で、こちらが攻撃を仕掛ける余裕は無さそうだ。魔力切れで負けるのが目に見えている。
「俺の家庭教師を甘く見んなよ。目にもの見せてやる」
「ほお?」
「ちょ、ちょ、ちょっ…!!」
アドがアンリ様を煽るので慌てて彼を掴んで、離れた所へ連れて行く。
「ちょっと!! 何言ってるのよ?!」
アドを解放した私は彼に怒鳴った。
「んだよ、俺の攻撃をかわせるんだから、あんな奴くらい秒だろ」
「防ぐだけならね!」
不貞腐れるアドに私は抗議を続けた。
「魔力量の差がありすぎる! 私……アドの家庭教師、辞めたくないよ?!」
情けないことに弱音を吐いてふにゃ、っとした表情で泣きそうになる。
つい、掴んだアドのシャツの裾に力が入ってしまう。
『俺の家庭教師はミュリエルだけだ』
そう言ってくれたのに。アドは私が家庭教師を辞めさせられても良いの?そんな不安で情けない顔をしてしまう。
するとアドは私の手を取って、ふわりと笑った。
「お前なら勝てる」
「……買いかぶりすぎだよ……本当に魔力量じゃ勝てないもの」
自信たっぷりのアドに対して私はさっきから情けない姿ばかり見せている。家庭教師であり続けたいと願うのに、弱気な自分しか出て来ない。
魔力量重視なこの国のことを、クソ食らえ、とは思う。でも実際にどんなに正しくて的確な魔法陣や詠唱を重ねても、持久戦になれば負けるのだ。
「俺がついてる」
アドはそう言うと、私の首に鎖をかけた。
「ネックレス……?」
かけられた鎖の先を見れば、眩しいばかりのエメラルドグリーンの石が付けられていた。
「これ……」
イリスの研究を手伝っていたからわかる。
(これ、魔法石だ……)
「俺の魔力、こめといた」
見つめた先のアドの表情がにやりと勝ち誇る。
「俺の魔力と、お前の知識があれば、向かうところ敵なしだろ?」
勝ちを確信した、アドの表情。
「俺の家庭教師は最強だってこと、魔術師団連中に見せつけてこい」
高鳴る高揚感に、私は思わず笑顔になる。
そんな私を見たアドにトン、と背中を押された。
「行って来い」
「うん!」
振り返らずに、でも力強く返事をした。
「別れは済んだのか?」
訓練場で待ち構えていたアンリ様が勝ち誇ったように言う。
「ええ。あなたとのね!」
「言ってろ!」
私の言葉をきっかけに、アンリ様が先制攻撃をしかけた。
(流石、卑怯者ね!)
私は瞬時にアンリ様の魔法を防御魔法で跳ね返す。
「なっ――?!」
アンリ様は驚いた表情を見せた。
思えば、アンリ様と魔法で手合わせをするのは初めてだ。魔法学校の実技は男女別だし。
「このっ……」
すぐに攻撃魔法を連発するアンリ様の魔法陣の軌道を読み、的確な防御魔法を張る。
(アドに比べたら、何て単純な軌道!)
改めて私の教え子凄い、と思いながら、アンリ様の魔法を次々に無効にしていく。
「アンリ様?! 遊んでいらっしゃるの? 早く片付けて!」
クリスティーの叫ぶ声が聞こえると、アンリ様は「くそっ」と苦しそうな表情で魔法を連発する。
「ミュリエルの魔力量は少ないんだ! すぐに魔力切れになるだろ!」
ドン、ドン、と単純な攻撃魔法を繰り返すアンリ様。
(これでよく偉そうにふんぞり返ってるわよね。騎士団の皆の方がよっぽど動けるわよ)
確かにここまでされたら、いつもの私なら魔力切れになる。でも――――
私は胸元のネックレスの石をぎゅう、っと握りしめる。
温かな光が私に力をくれる。
アンリ様の攻撃魔法を全て打ち消すと、間も与えず、私は攻撃魔法を繰り出した。
ドオン、という大きな音と砂埃が舞った。
観衆にいた魔術師団員たちは目を丸くして、野次っていたその口を噤んだ。
砂埃が収まり、私の足元にはアンリ様が倒れていた。