オメガがエリートになり、アルファが地に堕ちた世界
「甘い声が出たね。九条さん、胸が弱いもんね。ほんと、かわいい」

「漣、さん。敬語……」


「だめだった?こういうときくらい、タメ口で話させて。なんなら、名前でも呼びたいな。だめ?」

「い、いいよ」

子犬のような、でも狼のような男らしさもあって。そんな彼から、そんなことを言われたら断れない。


「美怜」

「剛、士さ……」

その日、私は不定期に来る発情期を一人ではなく、漣さんと解消した。

解消って言い方はよくないね。愛を注いでもらった。この表現のほうが正しい気がする。たくさん愛をもらった。


今までケモノたちに襲われていたのも忘れてしまうくらい、漣さんは私を抱いてくれた。


「美怜は綺麗だね。その声も、身体も。これからは俺が相手をするから、美怜は何も心配しなくていい。働こうなんて考えないで。君は家のことだけすればいいから」

「ありがとう。剛士さん。明日からはそうします」


この時の私は気付くべきだったんだ。漣さんの言動に。おかしかった点はないのか。今思えば、愛し合ったあとに正常な判断が出来ないことくらい、大人の私ならわかっていたはずなのに。

好きな人だから、番だからと気を許していた。その時点で私の負け。漣さんはいつから私を、漣さんだけの「モノ」にするつもりだったんだろう。

後悔しても、もう遅い。
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