オメガがエリートになり、アルファが地に堕ちた世界
「九条さんには幸せになってほしいから」

「こんなの……幸せでもなんでもない」


私はその場に座り込んだ。立ち上がる気力さえない。逃げたいのに、指一本、力が入らない。


漣さんに拾われて、救いの手を差し伸べられたとき、本当に奇跡だって思った。そのうえ、こんなに優しい彼が私の番なんて、どれだけ恵まれてるんだろうって。

この先、不幸とは無縁で生きていくんだ。私は、やっと本当の幸せを手に入れられるって、そう思っていたのに……。


「ねぇ、どの口がそんなこと言ってるの?幸せの意味、貴方は本当にわかってる?」

「わかってますよ。九条さんこそ、今更どこに逃げるつもりですか」


「逃げないわ。友人にも、死んだ両親にも迷惑がかかるから」

「だったら、ずっと一緒ですね。
嬉しいです、九条さん」


「……」

優しく抱きしめられた。でも、今の漣さんが優しいとは思わない。昨日までの優しかった漣さんはどこに行ってしまったの?そもそも、優しい漣さんは最初から存在しなかった……?
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