ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
Prologue *岳*
「お嬢様とのお見合い、謹んでお受け致します」
このハスミ不動産の社長である、蓮見 京一郎を前に、俺はその言葉を口にし深々と一礼する。
だかこの一礼は相手を敬ったわけでも感謝の意を込めたものではない。
顔を下げ床を見つめた俺の口角が野心と復讐心で密かに上がっていく。
五年でやっとここまでのし上がってきたんだ。
このチャンスを逃すなんて俺にはあり得ないこと……
──“今日は私、ラッキーでしたっ”
ふと、そんな言葉と共に彼女の屈託のない笑顔が脳裏をかすめ、上がっていた口角が一気に下がっていく。
鳴宮 桜葉
……どうも彼女といると調子が狂う。
田舎臭く都会にも染まりきっていない、どうってこともない女だというのに。
今度は先程と違う優しい顔で俺は素の笑みを浮かべる。
彼女を目の前にすると自分の目的を忘れそうになる……いや、忘れてしまいたくなるのはなぜなんだろうか──
─── とても……不思議な娘、だ。
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