ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
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HASUMIビル完成披露パーティー、すなわち社員食堂の新メニュー対決のイベントまであと三日。
週明け早々には企画部や役員、対決者などの了承を得ることが出来、パーティーの余興も兼ねて正式に新メニュー対決を行うことが決まったのである。
元々、完璧に仕上げていた岳の企画書のおかげで全てが滞りなくすんなりと動くことができた。
しかしながらその功労者でもある当の本人岳は、なぜだか週明けからまだ一度も食堂へ顔を出してきていないのだ。
「──お姉さんっ! 冷やし中華一つ」
そのかけ声で我に返った桜葉は、慌ててカウンター越しにいる社員のほうへと振り返る。
──が、気を抜くと一瞬で、作り物のような頼りない笑顔に戻ってしまう。
「は、はい、冷やし中華ですね」
(…あーもう、私さっきから全然集中出来てないっ)
今週に入ってからの桜葉は、ずっとこんな調子なのだ。
ソワソワしたり気が張ったり落胆したり……社員とも仲良く会話をしていた前の桜葉とは明らかに様子が違っていた。
他人にはわからないほどの小さな変化だが、職場で一番仲の良い千沙と潮にはその違いがすぐわかり、桜葉を見ていると気が気じゃない。
そして、その日の業務終わり──
ここ最近の日課として桜葉と千沙、潮の三人は人の出入りもまばらになった社員食堂のテーブルで新メニューの考案を詰めていた。
潮は特に料理長から何の命も受けてはいないが、乗りかかった船なのかずっと付き合ってくれている。
「──あ、でもこの予算だとこれは削らなきゃいけないかもな〜」
「あーじゃあ、水口先輩。代わりにもっと安めの鶏胸肉を使うっていうのはどうっすか?」
「……んーそうね、鶏胸はヘルシーだしパサパサ感と味付けをどうにかすれば、体型を気にする女性達には受けるかも──ね、さよちゃん?」
「………」
頬杖をつき、明後日の方向を見つめ何かを考え込む桜葉の耳には、全く千沙の声が届いていないよう。
千沙と潮はお互い目を合わせる──と、同時に千沙の両手がそっと桜葉の顔に近づいていく。
── パンッッ!!
瞬間、静寂が広がっていた食堂にその音は響き渡った。
数少ない他の社員共々、その音に体をビクッとさせた桜葉の視線が千沙の顔へと向かう。
どうやら千沙が手を思いっきり叩き、桜葉を思考の世界から救い出してくれたようだ。
「…いっっっ、たぁっ~~~!!」