ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


その結論に行き着いた途端、無理に作っていた笑顔が少しずつ綻びはじめ、どんどんと深い考えにのめり込んでいってしまった。


(…だ、だって…え、私いつから院瀬見さんのこと、好きになってた?
そ、そりゃ最初は嫌な奴だって思ったことはあったけど、でも…少しずつ彼の中身を知っていくうちに実際思っていた院瀬見さんとはかなりのギャップもあって……
──それに…私の知る院瀬見さんは…優しくて誠実で、時々からかってくるけど意外とお茶目で…けれど何かと気にかけてくれていつも温かな言葉を…くれ、る……)

動揺しながらも岳への想いに対する答えがそこまで辿り着いた瞬間──桜葉は口に手を当て呆然とする。
ようやく彼女にも己の気持ちがハッキリとわかったのだ。
と、同時に岳の姿を頭に思い浮かべると今度は自分の顔が一気に火照っていくのがわかった。

(……どうしよう、心臓がドクドクしてすごく、苦しい。院瀬見さんを想っただけでこんなふうになるなんて。
本当は私……もうとっくに院瀬見さんのこと好きになっていたんだ……。
──はぁ、もうなんで…ほんと私って、どこまで鈍感なんだろう…)

赤くなったり急に思い詰めたりする桜葉の様子を心配した潮は何か声をかけようとする──が、一足早く千沙の言葉に遮られてしまった。

「さよちゃんっ!
……あー、ほら、メニュー作りもほぼほぼ固まってきてるし、気分転換にどこかでゆっくり休憩でもしてきたらどう?」

「え…いえ、そんな……私なら大丈」

「桜葉さんそうしてください!
そりゃ、俺が言うのもおかしいですけど……あの……だから──」

何やら最後の語気を小声でゴニョゴニョと濁すように話す潮の表情は、何故か申し訳なさでいっぱいだ。
そう言われると気を利かせてくれている二人の好意も無下にはできない。

「……じゃあ、あの、スミマセン。少しだけ屋上で休憩してきます」

「はいはい! ゆっくりしてきなね~」

とりあえず、自分の財布とスマホだけを手に取ると、桜葉は二人に会釈をしその場を立ち去っていった。
そんな彼女を見送りながら千沙は小声で、「ありゃー相当参ってるわね」とポツリ呟く。

「ねぇ潮〜。さよちゃんがあんな状態になっている理由、あんた何か知らない?」

その言葉に潮の体は一瞬強張る。
目は伏し目がち、顔には冷や汗、体は妙に背筋がピンと張っていて見るからに緊張しているのは明らか。
潮のそんな様子を見逃さない千沙はジリジリと彼に詰め寄っていく。

「潮ぉ〜……あんた、さよちゃんに何かしたでしょ?」

感の鋭い千沙を目の前に、今度は潮の目が泳ぎ始めてしまった。




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