ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「あ~、じゃあ俺も屋上で少し休憩しよっかな~。この間はあまり桜葉ちゃんとゆっくりお話しできなかったし…いいかな?」

「はいっ、ぜひ」

(そうだっ…同期の神谷さんだったら院瀬見さんの噂の真相を知っているんじゃ)

「──で、桜葉ちゃんは一体何に悩んでるのかな?」

「っっ?!、ど、どうして……」

先程まで落ち込んでいた自分の心境を神谷に見抜かれてしまった桜葉の心臓は一気に跳ね上がった。

そんな何とも落ち着かない状況の中、チンッという合図と共にフロアへ到着するエレベーター ── 神谷は「はいはい乗った乗ったっ」と桜葉の背中を軽く押しながら中に乗り込んだ二人。

扉が閉まると同時に桜葉を壁へと追い込んでいった神谷が彼女の顔を覗き込んでくる。

「…か、神谷さん?」

「桜葉ちゃんってさ、思ったことすぐ顔に出るタイプでしょ」

そう言って近寄ってきた神谷の顔面も岳に負けず劣らずの破壊力。
しかしそんな神谷を目の前にしても今の桜葉には、岳の姿だけが真っ先に頭に浮かんでしまうのである。

「そんなに……顔に出ちゃってますか?」

右手で頬を触りながら桜葉は神谷から視線を外す。
そんな桜葉の仕草に自分の入る隙がないと感じた神谷は、少しからかい過ぎたと自分から顔を離していった。

「まぁ、少なくとも俺にはそう見えるけどね。ほら、俺って女の子の仕草に敏感だからさ──…で、こんな俺だけど、桜葉ちゃんさえ良ければお話し聞きますよ〜」





二人が屋上へ着くと、中途半端な時間帯なのもあって屋上には桜葉達以外誰もいなかった。
いつものお気に入りの方向に設置してあるベンチまで二人が歩いていくと桜葉は静かに腰を下ろし、神谷は座った途端足を組み缶コーヒーを飲み始めたのだ。

「──あの…神谷さん。少し、伺いたいことがあるんてすが」

「ん?なに」

「……院瀬見さんの噂…結婚が決まったっていう噂なんですが、ご存知だったり、しますか?」

「あ~蓮見令嬢との結婚話ね。あぁもちろん知ってるよ、だってその噂は本当のことだからね」

(……ほんとうのこと…)

あまりにもサラッと話す神谷の返答に桜葉の心はなかなか追いつけない。
心ここにあらずの状態なのについ顔だけは愛想笑いを浮かべてしまっている。

「ア、アハッ……そ、そう、ですか…院瀬見さん、結婚しちゃうんですね。──あ、だからここ最近…食堂には来てなかったの……かな…」

「え…嘘。あいつ…桜葉ちゃんに顔見せてないの?!」

「?…は、い。今週はずっと……ライ〇のやり取りも特にしてなくて」

少し落ち込んだ様子で話す桜葉を見た神谷は、「ハァァァァ~~~ッ!」と、いきなり呆れたような声と共に、仰け反っていた体を今度は勢いよく前に倒し、そのモヤモヤした感情を地面に吐き出したのである。




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