ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
*
(マズイ……
思っていたよりも相当、時間がかかってしまった)
全速力で走ったから顔は汗だくで化粧がドロドロ、二つに結んだ三つ編みはヨレヨレ。
そんな状態の中、まだ準備中の厨房の端っこで桜葉は今、こっぴどく料理長に叱責を受けている最中なのだ。
「──そりゃあね、救護は偉いとは思いますよっ。
でも何もこんな時間になるまで付き添わなくたっていいでしょう!?
今、何時だと思っているの? あなたが抜けていた分、全然進まなくてまだ準備も終わってないのよっ!」
そう話すここの食堂の料理長は、このハスミ不動産の社員食堂に長年勤めている年配の女性──滝田さん。
大柄で見るからに恰幅の良さそうなその体型は、「食べることが好きだからこうなっちゃったのよー。あ、昔は痩せていて美人だったんだけどね!」……と、以前自分で話していたのを聞いたことがある。
普段はどこにでもいるお茶目なおば様だが、仕事になるとかなり厳しく特にルールを破る者には容赦がない。
おまけに今は人手不足なのもありギリギリの人数で調理を補っている。
この忙しい時間に来ないとなると料理長が怒るのも無理はない。
「申し訳ありませんでしたっ! 以後、気を付けます」
(あぁ〜どうしよう……まさかクビになったり、しないよね?)
理由はどうあれ、遅刻をしてしまったのは事実。
桜葉は申し訳ない気持ちで一杯で直ぐ様、潔く謝った──けれど…この日の滝田さんはどこか腹の虫が収まらないのか、なかなかお叱りの言葉が止まらない。
再び、滝田さんが怒号の狼煙を上げようと口を開きかけた
──その時…
「滝田さん。彼女も反省しているし、その辺で許してあげてくれませんか」