ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

10.想い想われ嫉妬する *神谷*



屋上で桜葉と別れ一人エレベーターに乗り込んだ神谷は缶コーヒーを手に持ち腕組みをすると、気苦労からなのか少し疲れ気味のその身体をいつの間にやら壁へともたれ掛からせていた。


「ハァ……なんだよ岳達、結局は二人両想いだったんじゃないか。
──ったく岳の奴、また余計なこと考え過ぎて桜葉ちゃんまでをも不安にさせて、一体何がしたいんだよ」

岳と神谷はもう長いことの腐れ縁だ、だから岳の事情や考え方、性格もある程度は把握しているつもり。
神谷は少し飽きれたように溜め息を一つ床へと落とす。

(先週一度だけ……岳も素直に桜葉ちゃんへの気持ちを話してくれたと思ったんだけどなぁ。
結局はまた元に戻っちゃった感じだよ……まぁ、あの見合いの連絡がそのきっかけだとは思うけど。
本当、根がくそ真面目過ぎるんだよなぁ、アイツ)


チンッ──

モヤモヤと消化できない気持ちを抱えながら自分の課がある階へと辿り着いた神谷は腕組みを解き開いていくその扉を見やった。
すると、既にエレベーターの前では二人の男女が仲良く歓談しながら中へと乗り込もうとしていた。
神谷は「すみません…」と小声で呟くと急いでその二人の横を通り過ぎフロアへと降り立とうとした──が。

(──ん、あれ?
今のって確か…蓮見のご令嬢だったような。会社に来ていたのか……それに、隣にいるのは)

神谷はエレベーターの扉が閉まる直前、その人物を確認しようと後ろを振り返る。

(やっぱり…庶務課の久藤さんだ。どうしてあの二人が一緒に?)


瞬間、神谷は自分の目を疑った。

エレベーターの中には当の本人達だけ、既に扉は閉まりかかっている、辺りにはもう誰もいない。
きっとお互い気が緩んだのだろう──閉まる直前その隙間から、離れていた二人の指が一気に絡み合っていくのを神谷は見てしまったのだ。
一見、親子ほど離れている二人がそれはまるで恋人同士のような熱い振る舞い。


「……は…? 一体…どういう、ことだ──」





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