ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする




──────……


「はじめまして。蓮見 薫子(かおるこ)と申します。今は、城西(じょうさい)大学の二年生です」

「…院瀬見 岳と言います。社長…お父様にはいつもお世話になっております」

ラ・ミラヴールの個室に通された岳は、久しぶりに見る店内の様子に少し戸惑っていた。
そもそも二十年前は個室なんて存在していなかったしもっとカジュアルな内装であったはず。
それが今は、地中海にでもいるかのような白を基調とした洒落たものへと変わり、父親の店だったという面影を忘れてしまうほど。

個室へ入ると既にそこには一人の若い女性が座っていた。
蓮見 京一郎の長女、蓮見 薫子(はすみ かおるこ)だ。

(…彼女が蓮見の娘、か。俺達の家族をバラバラにした後、奴がある財閥の令嬢と結婚し生まれたその子供──)

端正な顔立ちの京一郎はもとより、既に亡くなっている財閥令嬢の母親も容姿端麗だったと聞く──その二人の娘ともあって、薫子も大層な美人だ。

背中まであるストレートの黒髪に少し垂れた大きな潤む目、そして薄ピンクに色づけされおしとやかに微笑むその唇。
例えて言うならば、蝶よ花よと育てられたザ・お嬢様というような感じだ。
清楚に飾り立てた白いワンピースはそんなお嬢様にはよく似合っている。

しかし、一見何の害もなさそうな薫子の前でも岳は自分の本心を隠す。
笑顔で隠されたその本心は野心や復讐心……醜い心で溢れている。

けれども──薫子から発せられた言葉は岳にとって予想外なものであった。


「お忙しいところ来て頂いてありがとうございます。……あと…最初に私、院瀬見さんに謝らなければならないことがあるんです。──あ、いえ…院瀬見さんではなく、正確には()() ()()さんに」

その瞬間、岳の眉がピクッと微動する……が、すぐにまたいつもと変わらぬ偽りの笑顔を薫子に向ける。

「薫子さんが、どうして私の旧姓を?……もしかして、お調べになられたのですか?」




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