ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
自分に触れてきたその感触と同時に耳に流れてきたのは、気遣う様子で問い掛けてくる桜葉の言葉。
一体何が起きているのかわからず岳は急いで目を開け今の状況を把握する。
すると、目の前には心配そうに岳を見上げ彼の額に手をあてる桜葉の姿が視界に入ってきたのだ。
「院瀬見さん大丈夫ですかっ? 少し具合が悪そうに見えて熱でもあるんじゃないか、と」
(…あぁ…そうだった。彼女はいつも自分より他人のことを気にする。だから俺は君のこと……)
岳の具合が悪いのではないかと咄嗟的に額へと手を当ててしまった桜葉は、驚いた目で自分をジッと見つめてくる岳の視線に耐えきれず、当てた手を慌ててどけようとする。
(は、恥ずかしいっ……いくら心配だったからって急に触ったら院瀬見さんだって気分悪、く…)
──その瞬間、桜葉の思考が停止する。
額に当てていた手の上に、突然覆い被さってきた温かな感触。
慌ててどけようとした自分の手をそっと包み込む優しい温もりを今度は桜葉が感じていたのだ。
見上げると岳の大きな手が桜葉の手を握っている。
「い、せみ…さん?
あ、あの…えっと、これは……」
「離さないで──お願いだから…しばらくこのままで」
岳はそう言うと優しく包んでいた彼女の手を今度は強く、桜葉の存在がちゃんと自分の所にあるかのように更に握ってきた。
過呼吸になりそうだ。
周りに聞こえてしまうほど心臓が煩く感じる。
桜葉の頭はパニックになっていた──けれども自分の願望でもあるかのように不思議と岳の要求を素直に受け入れたのだった。
(この、状況って……よくわからないけど…でも、私も出来ればずっと──このまま握っていたいな…)
「は…、い」
辿々しくそう言葉を返した桜葉はふと岳に視線を向ける。
そんな熱っぽい視線に気付いた岳もまた桜葉へと視線を落とす。
(あ〜、…好きって自覚すると院瀬見さんのこと何倍も格好良く見えてしまう……いや、そもそもが格好良いんですけどねっ。
って言うより私…手汗がすごいって思われていないかな)
「……鳴宮さん」
「は、はいっ!」
「鳴宮さんの手、なんか異様に熱くない? もしかして……鳴宮さんのほうが熱、あったりするんじゃない?
さっきから少し咳き込んでもいるし」