ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
2.最低男と真面目女 *桜葉*
桜葉は昔から、何かとタイミングの悪い場面に遭遇してしまうことが時々あった。
弟と彼女の初キスシーンに偶然出くわしてしまうとか。
好きな人に告白しようと決めたその日に、彼が違う人と付き合いだしてしまうとか。
バイトの店長がカツラを外している所にたまたま居合わせてしまうとか、などなど──思い出す度に落ち込んでしまう。
たまたまなのかもしれないがそのようなことが何度も続くと、さすがに自分はタイミングの悪い女なのではないかと自分認定してしまっているところがあるのだ。
(──あ〜、だからって…今まであまり逢ったこともなかったのに、昨日の今日で立て続けに院瀬見さんに逢ってしまうもの?
それもこんな間の悪い場面に遭遇するなんてっ)
その間の悪い場面が今まさに桜葉の目の前で起こってしまっているのだ。
「院瀬見部長!
私……ずっと部長のことが好きでした。もし宜しければ私とお付き合いをして頂けませんか?」
桜葉はたった今、自分が通ろうとしている廊下の先で岳が告白されている場面に遭遇してしまっている。
昨日仕事に遅れてしまった為、その理由を書いた書類を人事部へ届ける途中でのタイミングであった。
たまたま近くにある給湯室へ急いで身を潜めた桜葉は、溜め息を下に落としながらまた自分のタイミングの悪さを呪いたくなってしまう。
(ハァー、私って何でいつもこんなにタイミングが悪いんだろう。
あの告白している女性も私なんかに見られたくないだろうし、ここは一旦戻って……って、あれ?
そう言えば、確かあの女性……社内一の美人だって男性社員が噂していた人じゃ…)
モデルのような華奢な体型にパッチリとした目元、肩までの黒いストレート髪は天使の輪が見えるほどの艶々しさがある。
それに何と言っても化粧や服装など自分に合ったものがよくわかっているような女子力の高さ──女性らしいオーラが全体を包み込んでいるように感じる。
(やっぱり院瀬見さん、あんな綺麗な女性からもモテるんだ。なんか、煌びやかな世界観が…すごい)
その綺麗な女性は、プライベート用の携帯番号やライ◯アドレスなどの書いた名刺とお菓子のようなものを岳に渡している。
「あ、あの私、お菓子作りが趣味で…このクッキー、院瀬見部長のことを想って作りましたっ。もし良かったら食べて頂けませんか?」
岳は優しい笑顔でその名刺とお菓子を受け取り、いつもの柔らかい雰囲気のままその女性に返答した。