ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
16.目覚めたら…
身体が怠いし重たい──
……なんだか、とても長い夢を見ていたような気がする
── ……ん? あれ……私、どうしたんだっけ?……アパートの前までは記憶があるん、だけど……
「目を覚ましたみたいだね」
夢から醒めつつもまだ頭が呆然とする中、重たい瞼を少しずつ開けていると、突然桜葉の部屋にいるはずもない彼の声が聞こえてきたのである。
(──え……?)
疑問符が脳内にチラついた瞬間、一気に覚醒し始めた桜葉は慌ててベッドから飛び起き、驚いた表情で一点を見つめてしまう。
そこにはベッドの端に腰を下ろした岳が心配そうな顔で桜葉を見つめていたのである。
「い、院瀬見さんっ!?
…え、どうして私の部屋に──…って、あれ……」
(ここ、どこ…?)
周りを見渡すと視界に入ってきたのは十五畳ほどの広さがある部屋。
桜葉が寝ていたダブルベッドに大きな窓にはグレーのカーテン、それに備え付けのクローゼットとデスクや椅子だけが配置されており、枕元のサイドテーブルには薄暗い照明機器が辺りを照らしている。
シンプルではあるもののその部屋は全てがシックな装いでまとめられており、お洒落な大人の部屋といった感じだ。
明らかに自分の部屋でないことは桜葉にもすぐわかった、そもそもこんなに広い部屋であるわけがない。
(── じゃあ、この部屋は……)
「ここは俺のマンションだよ、桜葉さん。
君は自分のアパート前で倒れて一旦、病院へ運ばれたんだ。
風邪と寝不足が原因らしいんだけど、一応点滴で熱は下がって落ち着いたから俺の部屋に来てもらったんだよ。一人でアパートに居させるのは心配だったからね。
── 全く…何かあったら電話してって言ったよね」
(え…じゃ、じゃあ私は今、院瀬見さんのベッドで寝て…)
「ご、ご迷惑おかけしたみたいでごめんなさいっ! 私も院瀬見さんに連絡しようとしたんですけど……どうやらそこで気を失ってしまったみたいで──でも…あれ、そもそもどうして院瀬見さんが私を?」
(だってあの時確か……院瀬見さんじゃなく、女性の声が微かに聞こえてきたような)