ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
「──それに明日のパーティーは念の為、桜葉さんは欠席した方がいい。幸い、潮くんも準備に携わっていたから何とかなると思うし、今はゆっくり休んで」
「で、でもっ…」
““グゥゥゥッ〜〜〜””
──と、突然、桜葉のお腹から地響きにも似た低い音が周りに響き渡ったのである。
慌てて桜葉は自分のお腹に手を当てるが、既に鳴ってしまったものをどうこうできるはずもない。
(う、うそっ、どうして、なんでこんな時にぃっー?! …は、恥ずかしいっ、絶対院瀬見さんにも聞こえ)
「クッ…そ、そっか、桜葉さんはまだ夕飯も何も食べていなかったね。簡単な物しか作れないけど……ちょっと待っててくれる」
「す、すみませんっっ、あの、ほんとお手数をおかけしますっ!」
笑いを必死で堪えているのか、肩を小刻みに揺らしながら部屋を出て行こうとする岳、だったが──
「あ、そういえば…うちの母親と一緒に君の隣に住むおじいさんも病院に来ていたよ。騒ぎを聞きつけて病院までついていったらしい」
(え……トメさんが?)
「あ…たぶんトメさん、とても面倒見の良い方なので、もしかしたら心配で来てくれたのかもしれませんね。後でお礼を言っておきます」
「わかった──…でも彼は…」
「…?」
「いや、なんでもない。じゃあ、ちょっと待っててね」
そう伝え冷静な態度でドアを閉める岳。
それとは対象的に、桜葉の顔はまだ火照りが収まらず掛け布団に頭を埋めてしまう始末──しばらく経ってようやく落ち着きを取り戻し、桜葉はゆっくりと顔を上げ小さな溜め息を一つ吐いた。
(ハァ……何やってるんだろ私。大事なパーティーの前日に熱出すなんて。……ここ最近考え事ばかりで体調管理怠ってた…って言うか、院瀬見さんにも半分原因があるんですけどねっ)
自己嫌悪に陥りつつも少しだけ岳にモヤッとした感情を抱いてしまった桜葉はふと窓に掛かるグレーのカーテンが視界に入る。
(──それにしても…大きな部屋に大きな窓……そう言えばここって、どこにあるのかしら? 再開発されている向ケ丘に住んでるっていうのは聞いたことあるけど)
閉められているカーテンのその先が気になった桜葉はベッドから起き上がると、ほぼ壁一面が大きなカーテンで埋め尽くされている窓の方へと近づいていき少しだけカーテンを開け覗いてみた。
すると窓の外には無数のネオン輝く夜色が眼下に拡がっていたのだ。
「な、何ここっ?! めちゃくちゃ高い……高層階から見る夜景の綺麗さが半端ない…。え…院瀬見さんってこんなすごい所に住んでたのっ?」
「じゃあさ、桜葉さんも一緒にここに住んでみる?」