ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
突然、吐息のかかるほどの距離で聞こえてきたのは岳の甘い囁き──気付くと岳は両腕を窓につき桜葉の身体を覆うようにして耳元で後ろから話しかけてくる。
「い、院瀬見さんっ?!」
まるでその大人のラブシーン的なシチュエーションに桜葉は一瞬たじろみ何も考えず岳の方へと振り返ってしまう──と同時に二人の視線はふと重なったのである。
瞬間、何の前触れもなく桜葉の理性が溶け出してしまう、言えなかったたった一つの言葉が今、ふいに口から出てこようとしている──
(……あ……どうしよう、もう…隠せない)
なぜかわからないが、咄嗟的にそう思ってしまった。
岳に対する想いが桜葉の中に収まりきらず溢れ出てしまったのである。
「…あ、あのっ……わ、私──好き…です、、院瀬見さんの、ことが」
顔を赤くしながら細く震える声でやっと口に出せたその言葉──本当は今言うつもりではなかったのに……もう自分の気持ちを隠すことができなかった。
顔は沸騰するほど熱いのに、身体は冷や汗が出るほど冷たく震えてくる。
それは恋に対して臆病になっているのもあるだろうが、一番は告白したはずなのに岳からの返答がすぐ返ってこないことだ。
桜葉も返事を聞くのが怖くて顔を伏せたまま岳の顔を見れずにいる。
(…や…ど、どうしよう、なんで院瀬見さん…黙ってるの? 怖い…怖くて顔、上げられないっ)
「…はぁ……せっかく我慢して、もう少し待とうと──」
「え…」
自分の考え事ばかりで、やっと話してくれた岳の言葉を聞き逃してしまった桜葉はふと顔をあげた──
その瞬間、タガが外れた岳の想いが桜葉の唇を奪っていた。
「…ンッ……」
突然の岳の行動に思考が追いつかない。
桜葉はそのまま窓の方へと追いやられ身動きが取れない状態。
「…いせっ──」
岳は一旦唇を離しては更にまた桜葉の唇を奪っていく──それは強引ではあるがとても…優しくて温かい、それでいて激しい大人のキス。
桜葉もそのキスにいつの間にか堕ちてしまっていた、心が満たされ溢れてしまうほどに。
「……は…ァ」
今の自分達の立場、状況、これからのこと──そんなものは全部取っ払って互いの想いだけを確認し合った二人はゆっくりとその唇を離していく。
身体が熱くなった桜葉は今にも身体が崩れていきそうだか、それでも何とか立っているような状況だ。
(──あ、頭が…ボーとする…え、今って私……院瀬見さん、とキス…しちゃ、った……?)