ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
(…院瀬見さんの初、恋……?)
「あ、の…けど神谷さんがっ……院瀬見さんは蓮見のお嬢様と結婚するのは本当だって、でもそれは愛のない結婚だって聞いて、それで私、院瀬見さんにちゃんとそのことを聞かなきゃって思っていて」
岳の温かな体温がダイレクトに感じられるほど、強く引き寄せられていた力が少しずつ解されていく。
そして岳は少し戸惑った様子を見せながらも真っ直ぐに桜葉を見つめ自ら重い口を開いていったのだった。
「──…自分のことを全て話したら、桜葉さんは俺を軽蔑して嫌いになるかもしれない……けど、聞いてほしいんだ。もう、自分の気持ちを誤魔化したくないから」
「…はい、私も院瀬見さんのこと…たくさん知りたいですっ」
小さい頃の記憶、今までの醜い復讐心、そして愛のない結婚をして蓮見の全てを奪ってやろうとした黒い野心──全てを話せば、好きと言ってくれた桜葉の気持ちが変わってしまうかもしれない。
けれど、復讐の為にこれまで散々誤魔化し偽ってきた桜葉への気持ちはもう、……隠しきれない所まで限界にきていたのだ。
自分の行動と想いがチグハグして嫌悪感さえも感じてきていた……
── そんな時だった。
つい数時間前、桜葉が運ばれた病院で予想外にも岳はあの人と話す機会を持つことができた。
あの人が今まで調べ上げた調査結果を聞いて、岳は今まである人物に自身の心理を利用され操られていた事、そしてあの人がこれから何をしようとしているのかを知ることができた。
あの人は自分が根本的に悪かったと岳へ謝罪の言葉を述べてきた。
単純だが、岳はその言葉で一気に肩の力が抜け気持ちが少し楽になったような気がしたのだ。
だから今、桜葉の告白も相まって岳は素直に、今までの桜葉への気持ちを伝えることができたのかもしれない──