ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
「ええ…私もずっとそう思っていました。植島さんにも彼にも詫びをしなければと」
「……母さん、これは一体……」
「院瀬見さん。──そもそも君はなぜ、蓮見の財産を自分の物にしようと? なぜ…薫子と結婚しようなどと?」
回りくどい聞き方は時間の無駄だと言わんばかりに直球で尋ねてきた留吉は、全てお見通しかのような視線で岳の心を貫いてくる。
反対に岳の視線は一気に床へと落ちていき目が泳ぎまくっていた。
(──なんでっ…この人は俺がしようとしていることを知っているんだっ?
仮にも自分の孫である薫子を復讐の道具にしようとしている俺を…祖父であるこの人が許すはずないじゃないかっ。
…もう……ダメだ)
観念したかのように大きな溜め息を一つ吐いた岳は、「俺は……」と全て白状する言葉を投げかけようとしていた…
──が、直ぐ様それを留吉が否定する。
「あ、勘違いしないでもらいたいが、私は別に君を攻めているわけではない。……むしろあの親子にはそこまでされても文句は言えない立場だとさえ思っている。
……私が聞きたいのは、君がこの復讐をしようしたきっかけなんだ。もちろん父親の死がきっかけではあるのだろうが、もしかして誰かに何かを言われたのではないだろうか?」
復讐のきっかけ──
それは確かに父親の死で間違いはない。
しかし、その計画を考えるようになったのは……
「── 父さんの手紙、を渡されたんです…それに久藤が言ってきて──」
「それは……本当にお父さんからの、手紙だったのかな」
(…………はぁ…? 何を言って……)
心臓の鼓動が次第にドクドクと波打ち始め、自分の耳にさえその激しい音が響いてくる。
脳裏では過去の記憶がグルグルと回り岳の頭は既にショート寸前だ。
「と、父さんの手紙じゃないっていうのなら、あの手紙は…」
「恐らく……当時、秘書だった久藤が偽造したもの。それに、植島さんから来た本当の手紙は詩乃さんが大切に保管している。
久藤はまだ小さかった君にあることない事を吹聴し、本来の想いとはかけ離れた内容の植島さんの手紙を偽造して君に渡した…」