ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
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「──それが……さっきからさよちゃんのスマホに何度も電話をかけているんですが、全然繋がらなくて…」
「でも、ここまでは一緒に来たんだよね?」
その疑問を投げ掛けると、千沙と潮はお互い顔を見合わせ少し困惑した様子を覗かせてきた。
「実は……ホテルには一緒に来てないんっす。
桜葉さんに何か急用が出来たみたいで先に俺達だけで行っててくれと…後から必ず追いつくからって。
──もしかして桜葉さんに何かあったんじゃ…」
潮が心配そうな表情を浮かべ申し訳なさそうに事情を話してくれた。
どこかで事故にでもあってはいないか、桜葉の身に何かあったのではないか──潮の様子はまるで先にホテルへ行ってしまった自分に非があり、自身をとても責めているように見えた。
(ここにも来ていない上に最後に見たのは会社……と言うことは、桜葉さんはまだ会社の中にいる可能性が高いのか?)
「いや…まだ何かあったと決まった訳では……潮くん達はこのまま準備を進めておいてください、人数が足らないようだったら応援を寄越しますが」
「あ、いえ、準備はほぼ終わっているので、私達の方は大丈夫です」
「そうですか──じゃあ神谷、後はお前に任せてもいいか? 俺はとりあえず一度会社の方へ戻ってみる」
「戻るって……お、おい岳っ、お嬢様の方は一体どうすれば」
「院瀬見さんっ」
行き先が定まった岳は急いで厨房を後にしようとした──が、神谷の困った言葉と混じるように潮が岳を呼び止めてきたのだった。
振り返ると怖い顔で岳をジッと睨む潮が両手に力を込め何か言いたそうに口元を緩めてくる。
「…潮くん?」
「あ、あのっ、院瀬見さんっ!
…… 桜葉さんのこと宜しくおねがいしますっ!」
その言葉と共に勢いよく頭を下げてきた潮につられ、横にいた千沙も軽く頭を下げる。
桜葉に告白したもののその時点で潮は自分に勝ち目がないことはわかっていた。
桜葉を見つめる岳の優しく熱を帯びた視線、気遣う言葉はどれも彼女が大切なのだと語っている──それに、本人は気づいていなかったかもしれないが、桜葉もまた岳に惹かれていっているのを潮は気づいていた。
この半年、桜葉を見続けていた潮だからこそ彼女の微妙な変化をも感じ取れたのであろう。
桜葉の相手が自分ではなかったとしても、同じ恋をする者同士として──