ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
「わかってる、桜葉さんは必ず連れて帰るから」
桜葉達はこの日の為に頑張って色々な準備をしてきたのだ。
それを自分のせいで無駄にさせる訳にはいかない。
それに今夜は蓮見を落とす算段となっている……あまり時間もない。
あとは時間との勝負──
岳と神谷は急いで厨房を後にし、ホテルのエントランスまで一気に駆け上がった──が、その途中、岳のスマホに着信が入ってしまう。
(……ちっ、こんな時に)
「はいっ院瀬見っ!」
『おいっ院瀬見! お前、今どこにいるんだ〜。お前が早急にって言うから他の依頼を後回しにして調べて持ってきたっちゅーのに、お前何で会社にいねぇんだよっ』
電話に出るなり野太い大きな声で一気に捲し立ててきたのは探偵の冠衣であった。
冠衣は数日前に久遠の身辺調査などを岳から頼まれ、その調査報告書を今日持ってきたのだった。
「冠衣さんっ、そんなに怒鳴らないでくださ……って、冠衣さんもしかして今、ハスミ不動産に来てたりしますかっ?!」
「ああっ! 早い方がいいと思って所長自ら持ってきたというのに、お前いないんだもんなぁ~。今どこにいるんだよ?」
(……調査結果──久遠については既に昨日、一ノ瀬さんからある程度のことを聞かされているから後でもいいが……本社までそんなに遠くないとはいえ、ここからタクシーで急いだとしても十五分ほどはかかる。
それなら冠衣さんに先に会社内を探しておいてもらえればっ)
「冠衣さんっ、お願いがあります!
守衛室には俺から伝えておくので今すぐハスミへ入って桜葉さんを探してくれませんかっ。俺もすぐ行きますんで!」
「は、はぁぁ~?! おいちょっと待て……状況がよくわからんのだが、さよちゃん行方不明かなんかなのか?」
「ええっ、詳しいことを話している暇はないので冠衣さんお願いしますっ!……もしかしたら地下一階の庶務課第二室にいる可能性も──あそこの階は第二室しかないし今は久遠しか所属していないので何かを隠すには好都合……お願いしますっ」