ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

2.最低男と真面目女 *岳*




── 正直言って、俺には初恋というものはなかったと思う。
だから時々考える。

自分から好きになるというのは……
一体、どんな気持ちなのだろうと──



中学、高校、大学、社会人と、今まで岳の女性関係に“不足”という文字は存在しなかった──過去の彼女達とはそれなりに楽しんではいた。
しかし、それはどれも相手からのアプローチから始まるお付き合い。
特に断る理由もないからとりあえず付き合ってみるの繰り返し。

でも結局、そんな一方通行の恋愛関係は長く続くわけがない。
いつも女性達の不満が爆発して終わりを迎えるという悪循環。
けれどここ二年ほど岳は彼女を作っていない。

── 本格的に自分の未来が決まってきたからだ、今更作っても意味のないものと諦めている。

(……でもまぁ一度は本気で自分から好きになれる女性がいたら、それはそれで楽しかったのかもしれない。
──けど……)


「院瀬見部長!
私……ずっと部長のことが好きでした。もし宜しければ私とお付き合いをして頂けませんか?」

(彼女は論外だ、な)

高木 麻衣(たかぎ まい)──同じ部署の部下であり社内一の美人と噂される彼女から岳は今、愛の告白を受けている最中なのだ。

傍から見ればこんな美人に付き合ってと言われたら、大体の世の男性達は付き合うの一択しか考えないだろう。
しかし、彼女の裏の顔を把握している岳にとっては論外の一択しかないのである。

「あ、あの私、お菓子作りが趣味で…このクッキー、院瀬見部長のことを想って作りましたっ。もし良かったら食べて頂けませんか?」

彼女から差し出されたのは、プライベート用の携帯番号やライ◯アドレスなどが書かれた名刺とお菓子らしきもの。

(確かに彼女は仕事も出来るし表向きは美人でおしとやかなイメージだ。
けれどその裏では、何人もの男性を取っ替え引っ替え……相手に彼女や妻がいてもお構いなし。
──って言うか、手作りクッキーとか重過ぎだろっ)



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