ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
Prologue *桜葉*
いつか──どこにも行き場のないこの想いが晴れることはあるのだろうか。
目を瞑るとあの時の後悔が否が応でも沸き上がってくる。
消したくても消したくても……逃げて自分を偽ってもこの苦しい想いが消えるわけではないというのに──
『桜葉ちゃん、ずっと一緒にいようね』
わかってる。
もうあの頃には戻れない。
でももし……あんなことがなければ、私は今頃どうなっていたんだろう。
『ごめん……やっぱり俺は──』
彼を責めた所で何も変わらない。
だって……これは私が招いてしまった結果なのだから。
だから尚更、平気なふりをして彼等の側にいることはできなかった。
離れた場所で、私がこの想いに蓋をすればいい……いつかその想いが消えてなくなるその日まで──
“ほら……まだこんなに震えてる”
突如として頭に響いた彼の声は、暗闇だった私の心を消し去ってくれるかのような不思議な感覚がした。
院瀬見 岳
彼と何気ない会話をしている時だけ、幸せな気分でいられるのは何故?
……ううん、そんな疑問は考えるだけ無駄──彼と私は何もかもが違いすぎている。
私達はただ話が合う知り合い程度の存在。
……なのに、院瀬見 岳という彼の近くにいると──
何だかとても心の中が温かくなり安らかな気持ちでいられる。