ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
「高木さん、ありがとう……僕なんかに好意を寄せてくれて」
「そ、そんな…あの、それじゃ」
「そうだね…高木さんはとても魅力的で仕事のできる女性だ。だからこそ僕なんかには勿体ない、君にはもっと高望みをしてほしいんだ。それに応える男性が高木さんにはいるはずだよ。
それに、こんなこと言える立場じゃないけど…これからも僕の右腕として助けてもらえるととても嬉しい」
本音とは真逆の言葉がスラスラと口を通してよく出てくる。
甘く、そして傷つけず相手を更に持ち上げるような言葉を少し囁けば、こういう自分の容姿に自信がある女性はコロッと信じてしまうもの。
案の定、高木という部下は振られたにも関わらず目をトロンと幸せそうな顔をしながらその場を去って行った。
社会人になってこういう所作が更に上手くなったのは岳にとって良いことなのか悪いことなのか。
時々、本当の自分はどこにあるのかとわからなくなってくる──
(だが、そのおかげで自分の野望は何とか達成出来そうなのだから……きっと良いことだったのだろう、な。
……しかし、)
「手作りとか…有り得ない」
女性からの手作り菓子を見ると、岳の脳裏には過去の嫌な記憶が蘇ってくる。
あれは中学三年生の時──女子生徒達の間で “恋まじない”という本が流行っていた時のこと。
ちょうど調理実習で女子達がパウンドケーキを作り、岳はその中の何人かからプレゼントと称してそのケーキをもらった。
それが、トラウマの始まり──
そのお菓子を食べた途端、岳は気持ち悪くなり吐いてしまった。
よくよく見るとそのケーキ全てに長い髪の毛が二本ずつぐらい入っていたのだ。
口の中に絡んでくる長い髪の毛の感覚が今だに忘れられず、岳はそれから女性からの手作り物に抵抗感を持ち続けている。
後から友人の神谷に聞いた話によると、当時流行っていたおまじないの本にはそのようなことをすると両想いになると書かれていたらしい。
とんだ迷惑な話しだ。