ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


(寿司定食が連日出るだけでも食堂の売り上げに貢献できているし……それに何より料理長がファンである院瀬見さんの頼み事を断るはずがない。
あぁ〜…忙しそうな厨房の人達に申し訳ない持ちでいっぱいだよぉ。
それに、もう一つの院瀬見さんのルーティンも意味わからないし──)

苦い表情を浮かべながらも渋々向かいの椅子に座った桜葉に対して、岳はある人物を指差してきたのだ。
その指差す方向へと視線を向けた桜葉に岳はある質問を投げ掛けてきた。

「じゃあ早速。あの一番前に並んでる男性……彼はカレーライスを頼むと俺は思うんだけど、鳴宮さんは?」

「……あの、たぶん生姜焼き定食ではないかと」

(今日もやっぱりきたっ。……今だによくわからないこのルーティン)

またも小さな息を吐いた桜葉はもう慣れたかのようないつもの流れで岳の質問に答える。
「生姜焼きか〜」と笑顔で納得する岳が指差した先には、食堂の先頭に並ぶ三十代らしき男性社員が、注文をし終え受け取るのを待っているところだった。

この一週間、ランチ時の日課はこうだ。

岳が毎日一番値段の高い寿司定食を頼み、桜葉がそれを席まで運びランチが終わるまで岳の話し相手をする。
最初はその申し出を断っていたが、桜葉と岳の事情を何も知らない料理長からの上司命令ってなると話しも変わってくる。
仕方なしに桜葉はその申し出を受けてしまったのだ。

それに内容はどうあれ岳を叩いてしまったことに罪悪感を持っていた桜葉には罪滅ぼしの意識が少しあったのかもしれない。
早くちゃんと謝らなきゃと思いつつもなかなかきっかけがつかめず、ダラダラと一週間が経過しようとしていた。

そしてよくわからないのが、これ──岳とするメニュー当てクイズ?みたいなもの。
なぜこんなことをしているのかが桜葉にはよくわからない──


「はーいっ! 生姜焼き定食出来上がりましたぁ〜!」

この一週間をあれこれと振り返っていた桜葉の意識が、その元気な掛け声によって一瞬にして現実へと連れ戻される。
気付くと、クイズの対象者は生姜焼き定食を手にした所だった。



< 24 / 178 >

この作品をシェア

pagetop