ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「……えっと、じゃあこの一週間は私に嫌がらせをしに社員食堂へ来ていたわけじゃ?」

「嫌がらせ……?」

(── え……もしかして俺がその為だけに来ていたと思われていたのか?! …じゃあ俺って、めちゃくちゃ性格の悪い奴に見えていたということ?
いや、そもそも毎日社員食堂へ行く申し出は保身の為って思われているだろうし、元々良いイメージなんて持たれていないか)

「違うよ、前に言ったじゃない。酷いこと言ったお詫びに “毎日、社員食堂で一番高いランチを頼むから”って。だから通っていただけで他に意図はないよ……納得してくれた?」

「……そ、そう、だったんですね、まさか本当にそういった理由で来ているとは思っていなくて…すみません。
── あ、でもなぜ私は毎回指名されるんでしょうか?…それにあのメニュー当てクイズみたいなのは、正直一体何のために」

その言葉を聞いて今度は岳の方が呆気に取られポカンとした表情を浮かべてしまった。

「ん、今日も言ったけど、君に言われて気づいたというか……人の想いを一から学ぶべきだなと思ったんだ。
ついでに鳴宮さんにその感情を掴み取れるように鍛えてもらおうかと──……ってあれ? 俺、何か変なこと言ってる?」

(あれ…もしかしてこういうことじゃないのか? 人の想い…ということは、相手の考えていることを察知して予測して、先見の明を養えという、ことでは……なかったのか?)

いつもはクールで優しく部下想い、そして仕事のできる完璧な岳だったが、それは恋愛においても同じこと。

完璧に相手の好きなもの好きな事、してほしい事などをそつが無くやってきた。
それこそ自分なりに相手の気持ちを先に読んで行動していたつもり……けれど、実は何もわかってはいなかったのだ。

いつも愛すのは相手方の一方通行──好きだと告白されて特に断る理由もなく付き合うの繰り返し、そこに岳の愛は特になかった、だから相手方から別れを切り出されるのも意外と早い。

“色々してくれるのは嬉しいけれど、あなたに愛されている実感が全然わかない”
“私のこと、本当に好きなの?”
“私がしてほしいのはそんなことじゃないの!”

そう聞かれ岳はいつも返答に詰まってしまう。
毎回、似たような理由で岳は振られてしまうのだ。
彼の女性関係の経験値は高いが、自らの恋愛経験値は残念なことにとても疎くて低い。



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