ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
「……あ、いえいえ、院瀬見さんにそんなお手間は取らせる訳にはいきません。
それに食堂で働いている私と社員さんとではそもそも帰る時間が違いますし──あと…私、何となくこれが原因じゃないかな~、って思い当たる節がないわけでも……なくて」
桜葉はそう言うと手を口に当て明後日の方向に視線を向ける。
続けて口から出そうとしている言葉がなんだか言いづらそうだ。
「何か思い当たることが?」
「……は、い。あの、たぶんそのー……い、院瀬見さんが原因になっているのではないか、と」
「俺っ?」
「院瀬見さんは気づいてないのかもしれませんが今週ずっと食堂での女性陣からの視線……とても痛かったんです。
なので、もしかしたら院瀬見さんのファンかそれとも院瀬見さんのことを好きな方からの視線ではないかと。
私は一介の食堂スタッフですし、きっと院瀬見さんと一緒にいることを快く思わない方がいるのではないかと、思うんですが」
(俺のファン……って、でも社員食堂だけならまだしも、帰る時まで彼女の後をつけたりするものなのか?
……あ〜そんなことより、さっき鳴宮さんが言っていた通り、帰る時間が合わないんじゃどうしようもない)
桜葉の推察に疑問を感じながらも、もし本当に自分が原因だったらと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「──なので、院瀬見さんが食堂で私を指名しなければこういうことも減るんじゃないかと思うんです。
……今日はそのこともお伝えしようと思って来たんです」
(……いや、でもそれって鳴海さんと話す機会も減ってしまう、ということか?)
そう考えると妙に落ち着きがなくなってくる。
気になるのに気にならないふり、構いたいのに構うことのできないもどかしさ。
(はぁ……)
何とも言い表せない感情は溜め息に込めたことで少し軽減されるような気がした。
(いや、でもまだ本当に鳴宮さんのストーカーかもしれないし──それに…少し気になることもある)
「──わかった、今は鳴宮さんの言う通りにするよ。でも、今日だけはもう遅いし俺に送らせて」
「えっと、…じゃああの、はい。ありがとうございます。すみません、勝手なこと言ってしまって。……では今日だけ、宜しくお願いします」
毎日送ると言った岳の誘いを気丈にも断る桜葉だったが、本当は内心送ってくれると言ってくれたことに少しホッとした表情を見せる。
その後、食事を済ませた二人は居酒屋を後にし桜葉の家へと向かったのであった──