ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
5.予測不能な感情
「──で、本当の所はどうなのよ。院瀬見王子とは付き合って……」
従業員用休憩室で桜葉は一人の女性に詰め寄られていた。
一口含んだミネラルウォーターがゴクリと桜葉の喉を鳴らす。
「……なわけないわよねぇー! さよちゃんがあの院瀬見王子と付き合うなんて、ないないっ」
自分で聞いておいて勝手に否定され納得されちゃっている様子に、桜葉は愛想笑いを浮かべるしかなかった。
そんな勝手な妄想を抱く彼女は水口 千沙、二十六歳──食堂の先輩であると同時に桜葉の耳へと流れてくる会社のあらゆる情報は全て彼女から仕入れたもの。
「いや、さよちゃんがどうだとか言っているわけじゃないのよ。ただあのモテモテ王子だからねぇ〜…付き合うとしたら同等レベルの女性かなーって思っただけよ」
千沙が勝手にそう確信していても、どこか桜葉を疑ってくるのには理由があった。
岳と桜葉が駅で初めて言葉を交わしてから既に三週間……それからというもの岳はほぼ毎日食堂で昼食を取り、何かと桜葉に話し掛けては楽しそうに会話を交わしている。
確かに岳は女子社員達の憧れの元、彼の彼女や妻の座を狙っている女性は多い。
だが岳の尊い存在になかなか気後れして話しかけられない女性が多数いるのもまた事実。
実際、彼にモーションをかけるのは容姿端麗な女性か、はたまた対等に会話できる頭脳明晰の持ち主か──誰もがそう密かに思っているのだ。
だから、そのどちらにも当てはまらない桜葉が王子と気楽に会話をしているのが不思議でたまらないし、また他の女性達の妬みも買いそうだった。