ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
そのまま桜葉の隣に座った潮は、更に続けて岳に対する噂について話してきたのである。
「じゃあ水口先輩と桜葉さん。彼のこの噂、知ってます?」
「な、何よ…」
千沙と桜葉は潮の神妙な面持ちにゴクリと唾を飲み込む。
「……彼、ハスミ不動産の社長令嬢との間で結婚話しが持ち上がってるみたいなんっすよ」
(結婚?……院瀬見さんと、社長令嬢が、け──)
「結婚っ!?」
先に声を荒げたのは千沙だった。
その噂も本当かどうかもまだわからないのに既にショックを受けている様子。
「王子が結婚…王子が誰かのものになってしまう……」などと、ボソボソ独り言を呟き始めてしまっている。
「あ、でも千沙さん、それはただの噂なのかもしれないですし、本人に直接聞かないとわからないことですから」
「……じゃあ、さよちゃん。直接、王子に聞いてきておくれよ~」
「わ、私!? 無理無理無理……そんなこと気楽に聞けるほどの仲でもないですし、第一それが噂でも本当だとしても院瀬見さんのプライベートなことだから……」
「そうっすよ! 別に彼がどうなろうと俺達には関係なくないっすかっ」
(潮くんの言う通り、確かに私達には関係のないことだよね。
院瀬見さんにとっても自分の知らないところで勝手に詮索されるのは面白くないだろうし──けど……
それでもこの噂の信憑性が気になってしまうのは……どうして、かな)
かと言って、そんなこと桜葉の立場から聞けるはずもない。
ガチャッ──
そんなモヤモヤとした状態の時だった。
突然、料理長が息を切らしながら第一声と共に休憩室へと駆け込んできたのである。
「あっー! 水口さんいたっ!
ハァ〜…まだ帰ってなくて良かったわぁ〜」