ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


神谷の根拠もない力説にただ呆然と聞いていた岳は、またいつもの悪い癖が始まったと呆れ顔で溜め息を漏らす。

(── しかし……彼女がそんなに人気があるとは思わなかった。この美女好きの神谷がチェックする程だ、既に他の男子社員や従業員などから口説かれていたりするのか……)

そう考えると、またもや心臓近くでモヤモヤとした感情がうごめき出しソワソワするような、じっとしていられないような感覚に陥ってくる。

「まぁ、お前が桜葉ちゃんと特に何もないんなら…俺が例のパーティーにでも誘っちゃおうかな〜」

「パーティーってあの、二週間後にある “HASUMIビル完成記念パーティー” のことか?……何でお前が鳴宮さんを…」

「言っただろ、あの子は化けるダイヤの原石だって…っていうか岳には別に関係ないことだもんね。誘っても別に構わないっしょ?」

神谷はさっきから何かと岳を挑発するような口振りで話しを振ってくる。

「……あぁ。別に構わないさ。
俺と鳴宮さんは別にそんな関係じゃないし、今は知り合いっていうだけで…それに俺は……」

「蓮見令嬢との見合いが控えてる、だろ?」

(……そうだ。俺は俺の目的の為に行動するだけ──なのに…)

「もう、いいか。
社長に呼ばれてこれから上に行かなきゃならない。神谷も早く自分の部署に帰れよ」

(あぁ……これから上に行かなきゃいけないと思うと頭が痛い)

岳はその言葉を最後にエレベーターのあるフロアへと向かって行ってしまう。
腕を組みながら壁にもたれ掛かった神谷は、そんな岳の後ろ姿を見送りつつも険しい表情を浮かべてくる。

「…ったく岳の奴。本当にこのまま一生自分を犠牲にするつもりかよ」

そう一言呟くと、神谷はそのまま自分の部署へと戻って行った。




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