ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
そこには、いつもとは違う雰囲気を纏った桜葉達がいたからだ。
襟元が丸みを帯びている紺色カットソーに、小さな花柄が全体的に描かれた膝上丈の白いスカート──動く度にフワッと揺れるその様は男性の視線を釘付けにしていく。
足元には少しラメの入ったベージュ色のパンプス。
そして、長い髪はウェーブ状に仕上げられメイクはナチュラルな装いに施してある。
岳と神谷はもちろんのこと、この半年一緒に職場で働いてきた潮でさえ見たことのない桜葉の姿──
(……え、な、なに? なんでみんな無言? …やっぱりこの恰好、何かおかしいっ?!)
三人共暫しの間、呆然と桜葉を見つめていたがその静寂を千沙が一括して打ち破る。
「ちょっとちょっと皆さんっ!
さよちゃんばかりそんな見惚れてないで、私の恰好も見てくださいよ~。
どう、潮! 今日の私、何かこう、グッとこない!?」
(え、いやいや……み、見惚れるって千沙さん、何変なこと言って)
「…あ~……はい、一応女性に見えるっすね」
「うわぁ~、やな奴っ!」
いつもの通り、千沙と潮が険悪になりそうな雰囲気を察した桜葉は、このムードを早く断ち切ろうと二人の間に入り皆に入店を促そうとした。
「あ、あのっ! え、え~と、…とりあえずお店に入りましょう、か。 ……あ、確か企画部の神谷さん、でしたよね?」
桜葉の視線に写ったもう一人の男性── 岳と人気を二分するあの神谷がいることに気が付いたのである。
神谷も岳と同様、イケメンの部類に入るから何かと女子達の注目度が高い。
二人揃って話している時なんかはいつにも増して黄色い声が飛び交う始末。
「はい、神谷ですっ! え~桜葉ちゃん、俺のこと知っててくれたんだぁ、嬉しいな〜」
「はい、前に千沙さんに教えてもらって……院瀬見さんも神谷さんも会社では有名人ですし」
「そっか~。今日は岳に付き添って突然来ちゃってごめんね。彼から話しを聞いたらなんか楽しそうだなって思ってさ」
「いえっ、大勢の方が楽しいですし、メニューに対しても色んな意見が聞けますから。今日はよろしくお願いします」