ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


すると、それまで不機嫌な様子でずっと口を閉ざしていた岳がようやく口を開いたのだ。

「鳴宮さん。神谷のことはいない存在だと思って構わないよ。彼が勝手についてきただけだから」

「はぁ~? そんな言い方ないだろぉ~岳。…ごめんね桜葉ちゃん、こいつ、ちょ~っとばかし中二病をこじらせちゃっててさ」

「中二、病?」

桜葉と千沙が同時に声を揃えて聞き返すと、今まで見たことのない岳の慌てっぷりが露見する。

「か、神谷っ!? お前っ……訳わかんないこと言うなよっ!
ほ、ほら、エレベーターが来た、みんな早く店へ行こう」

そう言って耳を赤くした岳はちょうど降りてきたエレベーターに皆を押し込んだ。
最後に乗り込んだ桜葉と岳は皆の間をすり抜けエレベーターの奥へと進んでいく。
後ろで隣同士になった桜葉はエレベーターに乗ってすぐ、横目でチラッと岳を見上げてみた。

(……そう言えば、さっき逢ってからまだ院瀬見さんとちゃんと会話してないな。それに院瀬見さん、さっきからちょっと機嫌悪そうだし何だか目の下にクマも出来てるような……もしかしたら、週末で仕事終わりなのもあって疲れが一気に出てる、のかもしれない)

エレベーターに乗っている間も前に立つ神谷と千沙の会話しか聞こえない中、岳はずっと無言で真っすぐ前を見つめたまま。

(……それとも…この恰好、気合い入れ過ぎみたいに思われて、引かれたかな)



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