ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


回りくどい言い方をする神谷に、俺は少しムッとした表情を浮かべ眉間にシワが寄ってしまう。

「要はさ、本気(マジ)恋に陥ると自分や周りの気持ちが見えなくなるほど臆病になるし熱くもなる……今、お前はそんな状態なんだよ。
本当は好きなくせに自分の気持ちを認めようとしないから下手に踏み込めない……でも、他の男に取られそうになるのは嫌で裏から手を回す──
わざわざあの新メニュー対決の企画をねじ込んできたのも、俺がパーティーに桜葉ちゃんを誘えないようにするため、だろ?」

「な、何言って……」

酒がかなり入っているのか、今日の神谷はやけに口がよく回る。
そんな神谷は据わった目つきで俺の顔を覗き込んできた。

「まぁ〜、目にクマなんか作っちゃってさぁ~……徹夜でイベント企画の資料作り上げたのバレバレだぞ。そもそも昨日の今日で、急遽新たなイベント企画を練るなんてそうそうできるもんじゃないからな」

図星を言い当てられて悔しいのか俺は唇をギュッと噛み締めた。
神谷は昔からこういう色恋沙汰に関して鋭いところがある。
本人もモテる要素満載だから俺なんかより本気っていう恋をそれなりにしてきたのだろう。
そんな神谷の前で無理に虚勢を張っていても仕方がない。
俺は観念したかのように溜め息を吐くと、つい本音を漏らしてしまうのだった。

「……確かに、鳴宮さんと一緒にいるといつの間にか自分の境遇を忘れてしまうぐらいに心が安らぐ。彼女に近付く度に胸が高鳴るのも事実だ……けど、今更……」

「じゃあもう──いいんじゃないか?
お前の家のことも、これから何をしようとしているのかも俺は全部知ってるけどさ…好きでもない相手にずっと縛り付けられるのは苦痛でしかないぞ。
それにやっと自分から好きになった子だろ? 今ならまだ引き返せると思うぞ」

長年抱いていたドス黒く醜い決心が彼女と接していくうちに少しずつ揺らぎ始めているのは自分でも本当は気づいていた。
でもその上で自分の想いはいつも胸の奥に追いやっていた。
──なのに……

(とどめを刺されたかのような神谷のこの言葉は……正直、頭が混乱する)




< 78 / 178 >

この作品をシェア

pagetop