ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

7.その日の帰り道 *桜葉*



── 二十一時五分


人通りが疎らな公園。
ポツンポツンと間隔をあけて立つ街灯は、静まり返った暗闇を微かな灯りで照らしてくれる。
その街灯の真下にあるベンチに腰を下ろした私は、夜空を見上げながら自分の火照った身体を冷ましていた。


(はぁー気持ちいい…夜風に当たっていると気持ち悪さも少し落ち着いてきたみたい。
……それよりも千沙さん、あれからちゃんと家に帰れたかな)

かなり酔っていた千沙さんだけど、お店を出た所でタクシーを捕まえると「私は大丈夫よぉ〜」とだけ言い残しそのまま一人で帰ってしまったのだ。
送って行こうかとも思ったが千沙さんがそれを拒否、仕方なくタクシーの運転手に住所だけを告げ彼女をそのまま送ってもらった。

私も元々お酒が強い方ではなかったけれど、今日は特に楽しかったのかいつも以上に飲んでしまったよう。
帰っている途中、少し気分が悪くなってしまった私は一旦この公園のベンチで休むことにしたのだ。


「──桜葉さんっ! 遅くなりました、これ買ってきたのでどうぞ」

近くの自販機で購入したお茶を二つ抱えながら走って戻ってきた潮くんは、息を切らしながらペットボトルの片方を私に差し出してくれた。

「ありがとう潮くん。
ごめんね、私が途中で気分悪くなっちゃったから帰るのが遅くなっちゃうよね。
あ、お金……」

「あ、いえ。お金は大丈夫っす」

そう言った彼は最後に大きな息を吐き呼吸を整えると、少し気まずそうな様子で私の横へと座ってくる。

(あ…そう言えば…思ってみれば潮くんって、いつも私の隣に座っていることが多いような気が)

「ありがとう、じゃあ…あの、頂きます」

ふとそんなことに気づいた私も、貰ったお茶を飲んでいくうちに少しずつ気分悪さも良くなっていった。
ただその間、潮くんはずっと沈黙を貫き通し顔は俯いたまま。

私はお茶を飲みながらチラッと潮くんの方に視線を移す。

(……どうしたんだろう潮くん。なんかいつもと様子が違うような、…話しかけてもいいのかな?)

何か会話のネタを──と、頭の中で模索しようとしていたちょうどその時、彼が急に身体を向け私の顔を覗き込んできたかと思うと、「あの、桜葉さんっ!」と、強い口調で一言。
その突然な行動に驚いた私は口に含んだお茶を一瞬吐き出しそうになってしまった…が、慌ててそれを喉の奥へと飲み込んだ。

「は、はい?!」

「い、言うのが遅くなりましたが……きょ、今日の格好、とても素敵っす!」



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