ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
先程までとは違い、いつもの冷静な口調で告白の言葉を口にした潮くん……けれどそれに反して、私の耳元に押し当てた潮くんの心臓はとてもドキドキと速く動いているのが伝わってきた。
そして自分の心臓も煩いぐらいにドクドクと脈を打ち、それに同調するかのように顔全体が紅潮していく。
── だけど……
彼の想いに私が応えることはできない。
今の私は本気で誰かを好きになってしまうことが怖い、好きな人がまた自分ではない誰かを選んで離れていってしまうのが……堪らなく怖いのだ。
ストレートな告白をしてくれた潮くんに対して私はどう返答したら良いものか、今の自分の心情に見合う言葉を模索する。
力強く抱きしめられた腕の中で小刻みに少しずつ後退していった私は、一旦彼の束縛から逃れようと試みた。
「あ…、の…潮くん、私」
「やっぱり、院瀬見さんのことが気になりますか?」
「え…」
(なんで…院瀬見さんの名前が)
「あーーーっ! 俺、全然余裕ないっすね、スミマセン!
いや、今はまだ返事聞くのは止めておくっす!
── なので桜葉さんも……しばらくの間だけ俺のことでいっぱい悩んでおいてください」
少し意地悪そうな言葉と共に潮くんは今まで見せたことのないあどけない表情を浮かべてきた。
「で、でも潮くんっ…」
「今まで俺の告白を冗談としか思ってこなかったバツっすからね!
さぁ、もう遅いし帰りましょうか」
痛いところをつかれたと思った。
そう言われてしまったら今は何も言い返せなくなってしまう。
「うん、わかった。今まで…ごめんね……」
(本当……自分の鈍感さには嫌気が差す。あの時だって──)
自分の背負った十字架はこの先癒えることはあるのだろうか。
そんなことを思いながら拭いきれない自分の過去に小さな溜め息を吐いた。
(あの時にはもう……先生の気持ちは水樹に向いてしまっていたのだ。だから水樹と──)
好きな人が離れていくのはとても辛いしあんな経験はもうしたくない。
だから私は──
本気で相手を好きになってしまうことに……自分に大事な人が出来てしまうことに…躊躇してしまっている。