ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
*
「それで? あの店は順調に傾いているのか」
「はい。恐らくはこの一週間で決着が着くかと」
他に引けを取らないほどの高層ビルを構えるハスミ不動産は都心ビル群の一角に建っている──その最上階に社長室は設らえてあった。
一面全ての窓から見下ろす大都会の景色は、自分が頂点に立っていると再認識させてくれる。
その窓の前に立ちながら蓮見京一郎は、ある女性の姿を頭に思い浮かべ口元に緩みを与えていた。
「──いや、二週間だ。あと一週間は猶予を与えてやれ」
「は、はぁ…」
秘書の久遠は少しばかり間抜けな返事をしてしまう。
一週間で蹴りが着くところをわざわざ猶予を与えろなどとは── 京一郎の秘書になって早一年、いまだに久遠は京一郎の考えややり方を全て把握出来ずにいた。
それでもただ一つわかっているのは……恐ろしく彼が冷徹な人間で女好き、何に関しても自分の欲しいものは必ず手に入れないと気が済まない性格だということ。
(あの家族はもう駄目だろう。
可哀想だが……蓮見社長に目をつけられたらお終いだ。
この一年、彼の側にいて既に何人の人達が不幸になっていっただろうか)
そんなことを考えながら今日のスケジュールを京一郎へ伝え終えた久藤は、一旦秘書室へ戻るため社長室を出ていこうとするがすぐに呼び止められてしまった。
「あぁ、それと久藤」
「はい」
「来週土曜の夜、アカデミアホテルのスイートを予約しておいてくれ。時間はお前に任せる」
「承知しました」
(……また、違う女か)
イケメンで金もある京一郎は黙っていても女が寄ってくる、それに輪をかけ本人も女好き……取っ替え引っ替えし放題だ。
それに一度寝た女とはもうそれでおさらばという徹底ぶり── 男にとってはなんとも羨ましいことか。
(……しかし、社長のつまみ食いも少しの間だけでいいから控えてもらいたいものだ)
久藤がこう思うのには訳がある。
それは京一郎の婚約が間近に迫っているからだ。
その婚約相手はハスミ不動産にとって利益となる御令嬢──容姿端麗、家柄、どれを取っても申し分ない。
だからこそ京一郎の女性関係が今バレるのはとてもマズイことになってしまうのだ。
一礼をし社長室を出た久藤は深い溜め息を一つ吐くと、直ぐ様ホテルの予約を取り付けるのであった。