ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
“──植島容疑者(三十九)はアカデミアホテルにて「蓮見氏を出せ」と叫びながらホテル従業員を恫喝。
蓮見氏が出てきたところを襲撃し、蓮見氏並びに秘書の久藤氏に暴行を加え全治一カ月の怪我を負わせるなどした疑いで警察に逮捕された。
その後、留置所で自殺──自らの行為を悔いての自殺だと警察関係者は発表しており──”
中学に上がり養父母がお祝いにと買ってくれたスマホで何気なくネットを開いた岳少年は、父に関する記事を呆気なく見つけてしまったのである。
残っているあの事件の日の記憶、それに父の手紙と久藤が言っていた言葉……蓮見京一郎という男。
そしてこの記事の内容からして岳少年の頭の中では、途中途中切れていたピースが怒りと共に繋がっていった──
復讐への幕開けだった
──────……
二十年ぶりにこの店に来たからか、靄のかかっていた昔の記憶が鮮明に動き始める。
脳裏で一通りの記憶が流れ終えた岳は、ゆっくりと目を開け自分でも意図しない大きな溜め息を漏らしてしまう。
「父さん……、もうすぐだから」
嫌な記憶に掻き立てられ、再度復讐心の立て直しを図ろうとした岳──だったが、
ピコンッ
タイミング悪くスマホの通知音が鳴り響く。
ライ○の画面を開くとそこには、コメントと共にブサ可愛い猫の写真が二枚ほど添付されている。
通知の相手は昨日ライ○交換をしたばかりの桜葉からのものだった。
“突然すみません。昨日話していた、とらぞうの可愛い写真があったので送ります。とらぞうを見てるととても癒されるので、院瀬見さんもこれを見て癒されてくれたら嬉しいです”
思わず桜葉のコメントと、お世辞にも可愛いとは言えない猫の写真に笑みが溢れそうになる。
やはり彼女を近くに感じてしまうと自分の嫌な部分が浄化され晴れていくようだった。
(彼女が直ぐ様、自分にコメントを送ってくれたことが……こんなにも嬉しいなんて、な…)
──だが、この気持ちは無理矢理にでも絶ち切らないといけない。
そうでないと……俺は
手にしていたスマホの電源を切るとそれを無理矢理、鞄の中に仕舞い込んだ岳は険しい表情と共に、真っ直ぐ店の玄関へと視線を移す。
そして、揺らぎ始めた決意と共に “ル・ミラヴール” の中へと入っていくのであった。