推しへの恋愛禁止令を出したのは推しの相方でした
ー玲那 中学3年生ー

不幸な訳ではない。
母親はいないけど、優しい父が傍に居てくれる。
不自由なく元気に生活できているし、嫌なコトもない。
友達もいる。ただ私が心に抱えている不安や弱さを吐き出せないコトが淋しかった。
とある日、作曲家の父が家で曲を作っていた。
「どうしてお父さんは曲を作り始めたの?」
何気なく聞いてみた。父は優しく笑って答えた。
「曲は何年経っても人を救えるから良いなって思ったんだ」
「何年経っても?」
「あぁ。俺がよく聴いて元気をもらってる曲は10年前に出された曲なんだ。聴く人がいれば、曲はいつ世に出されたなんて関係なく、人を救うコトが出来る。今作ってるこの曲ももしかしたらすぐ聴いてくれた人だけじゃなく10年後、20年後に居る誰かを救えるかもしれない。それってスゴく素敵なコトなんじゃないかって思うんだ」
「なるほどね」
「本とかも同じコトを言えるけど、父さんは音楽が好きだったから曲を作り始めたんだ」
優しい父らしい理由だと思った。
「あと話すコトができなかった想いを、歌にして言うコトが出来るからかな...」
ボソッと言った父の言葉を私は聞き逃さなかった。父にも言えない想いや考えがあったのかと思った。
父は笑顔で私の方を向いた。
「玲那、曲を作ってみないか?」
父からそう言われた瞬間、心に光が灯ったような感じがした。
「うん。作りたい」
私はそう伝え、父に曲の作り方を教わった。
「どんな曲書いたらいいの?」
「玲那が伝えたいコトを歌詞にしたら良いんだよ」
父から教わった作曲の方法と言葉を胸に、私は曲を作り始めた。
私が伝えたいコトは何だろう。そう考えた時に思ったのは、私は弱くて、色んな不安を抱えている。でもそんな弱い私でも生きたいというコトだった。
私は、私の弱さを曲にした。
何とか形になった曲を動画サイトに投稿した。投稿した日の再生数は93回。まぁそんなものかと思い、私はパソコンを閉じた。
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