推しへの恋愛禁止令を出したのは推しの相方でした
ハルカが向かっていたのは私達が初めて話した高台だった。
「ここが行きたかった場所?」
「うん」
移動中もハルカは口数が少なかった。今も静かに街を見下ろしている。
私もハルカと同じように街を見下ろす。夕焼けで照らされるオレンジの街は綺麗だった。
「綺麗だね」
「...そうだな...。ここで初めて会った時のコト覚えてるか?」
「当たり前だよ。あんな衝撃的なコト忘れられるわけない」
「ははっ。そりゃそうか」
偶然会えた推しの相方。あの日のコトは今も鮮明に覚えてる。
「その時はまさか俺たちのソロ曲作ってもらうコトになるなんて思わなかったな」
「そういえば今回私にソロ曲を制作させるって提案したのハルカなの?」
マネージャーさんに言われたコトを思い出し、私はハルカに問いかける。ハルカはニヤっと笑って答える。
「あぁ、玲那がボカロPのReiだって分かったからな。曲作って欲しいって思ったんだ」
「そうなんだ...ありがとう」
ボカロPとしての自分の存在を知られていたコトが照れ臭くなり、私はハルカの顔が見れなくなった。
私は再びオレンジに染まった街を見下ろす。
「玲那が曲を作り始めたきっかけって何なんだ?」
「お父さんが作曲家なんだ。小さい頃から曲作りを間近に見てて、私も作りたいって思ったんだ」
「身近に曲作れる人がいるってスゴいな」
「うん。色々教わって、初めて曲を完成させた時は嬉しかったな」
3年前の初めて曲を完成させた日のコトを思い出す。パソコンの中の1つの曲は、まるで宝石のようにキラキラ輝いたモノに見えた。
「色んな曲を作っていくのがどんどん楽しくなったし、私の曲を聴いてコメントしてくれる人もいてくれるのが本当に嬉しいんだよね」
私は今までに貰ったコメントを思い出す。その一つ一つが本当に大切で、心を温かくしてくれるものだった。
「最初にコメントを貰った時のコトとか今でも鮮明に覚えてるよ。本当に嬉しくて...って私ばっかりが話してるね。ごめん。今日はハルカのソロ曲について話さなきゃなのに...」
そう言いながらハルカの顔を見る。ハルカは空を見つめていた。
「ハルカ?」
ハルカは優しい表情で私の方を向く。
「玲那はどの季節が好き?」
「え、季節?」
脈絡もなく、そう質問され戸惑った。しかし私はすぐに答える。
「うーん、春かな」
ハルカは少し瞳を見開き、そっかと小さく呟く。
「なんで好きなんだ?」
「桜が好きだからかな」
「...なんで?」
「桜を見てると生きようって思うんだよね。今年も満開の桜が見れて嬉しいし、来年も桜を見るために生きようって思えるの。私にとって桜は生きる元気を与えてくれる存在なんだ」
1番好きな花である桜。そんな桜を好きな理由を言い終わった所で、ハルカが優しくて、でもどこか泣きそうな表情をしているコトに気づいた。
「ハルカ?」
「...玲那、聞いてもいいか?」
「え、うん」
「...巳波桜って分かるか?」
「えっ...?」
唐突に言われた名前。その名前は私の心に強く残っている名前だった。何故その名前がハルカの口から出るのか分からない為私は大きく戸惑う。
「知ってるよ...。私の曲に初めてコメントをくれた人。ずっとコメントしてくれたから覚えてる」
さっき最初にコメントを貰った時のコトを覚えてると言った時に思い浮かべていたのは桜ちゃんのコトだった。コメントに返信をして話したコトもあった。私にとって特別でずっと覚えてる人だった...。
「でも2年前からぱったりコメントが来なくなって...。もう聴いてもらえなくなっちゃったかなぁって思ってたん...だけど...」
淋しい気持ちのまま言っていた所でハルカが一粒の涙を溢しているコトに気づいた。そしてハハッと消え入りそうな声を溢す。
「玲那、改めて自己紹介をするよ」
ハルカは私を真っ直ぐ見る。
「俺の名前は巳波遙。妹の名前は巳波桜」
ハルカと桜ちゃんが兄妹?そんな繋がりがあったコトに驚いた。私は桜ちゃんについて聞こうとしたが、ハルカから告げられた事実は私から言葉を奪った。


「桜は2年前に病気で死んだ」


衝撃で立ち尽くす私。
瞳に映るのは淋しそうに微笑むハルカと茜色に染まった空だった。
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