ギター弾きの天使とデュエットを 両想いのその後 甘々番外編

「チャコ？　その辺にしとこうな」


　ジャンは天使のような微笑みを浮かべているのに、なぜだかそこに黒いオーラみたいなものを感じてしまう。たけるがそれに思わず身を震わせると、ジャンは次の瞬間にはもう普通の空気を出して、たけるに話しかけてきた。


「チャコから聞いたんだ。たけるくんがチャコに寄り添ってくれてたって。本当にありがとう。あのころ彼女のそばにいられなかったから、君の存在が彼女の支えになっていたんだって知って、本当に感謝したよ。ありがとう」


　たけるは思わず泣きそうになった。あのころのチャコの淋しそうな表情が蘇ってきて、今の幸せそうなチャコの表情と重なる。チャコはこの人に深く愛されているからこそ、あんなに落ち込んで、今はこんなにも嬉しそうにしているのだとわかった。すごく尊いものを目にしたようなそんな心地だった。


「いえ、気にしないでください。自分はただチャコさんといるのが好きだっただけなんで。お二人が再会できて、本当によかったです」
「ははっ。本当にいいやつだな」
「だからいい子だって言ってるじゃん！」


　言い合いしつつも、互いに笑顔で見つめあっている。たけるは二人のその姿を目にして、二人の関係性にも憧れを抱いた。自分もこの人たちを目指してみたいななんて思いつつ、二人の様子を眺めていたら、唐突にジャンから話を振られて驚いた。


「俺のこと天使だって聞かされてたんだろ？」
「え？　あー、はい。まあ、そのうち本当の天使じゃないってのはわかったんですけど……」


　当時は本当に幼かったんだなと思う。きっとサンタを信じているような、そんな感覚と一緒だったはずだ。


「ごめんね、たけるくん。騙すようなことしちゃって」
「いえ。自分が子供だっただけなんで。あんまり覚えてないですけど、楽しかったのは覚えてますから、大丈夫です」
「たけるくん……私もね、楽しかったよ。私、たけるくんがそばにいてくれたの本当に嬉しかったからね？」
「ふふっ、はい」


　そういえば、この人はこうやって素直な言葉をよく伝えてくれていたなと、なんとなく当時のことを思いだして、不意に懐かしい気持ちが訪れる。この人らしいなと思えば、自然と笑みが漏れていた。


「チャコ、しっかりお礼言えてよかったな」


　ジャンは優しい微笑みを浮かべながら、チャコの頭を撫でている。中学生のたけるには、そのシーンがとても恥ずかしいものとして映ってしまうのだが、二人が想い合っている空気を肌で感じれば、なぜだか自分まで幸せな気持ちになってくる。惜しげもなくチャコに愛情を注ぐジャンの姿は、驚くほど格好よかった。