白い菫が紫色に染まる時
私の母親は見ないうちに、だいぶ老けていた。
白髪が増えた。そして、前ほど活気がなくなっていた。
会っていない年月の長さを思い知らされる。

「菫・・・・・??」
「ごめん・・。ごめんなさい。今まで」

思わず出てきた言葉だった。何も考えず、ごめんとしか言うことができなかった。
許しを求めていたわけではない。でも、そう言わないと私が救われなかった。
同時に私の体は引き寄せられ抱きしめられた。

「いいのよ。そんなこと・・・・。あなたが元気で生きていてくれたなら」

顔を見なくてもわかる。お母さん、泣いている。
体を離され、次は手で顔を触れられた。
まるで、ここにいることを確かめているかのように。

「綺麗になって・・・。本当に・・・」

九年ぶりの再会を果たした後、私は居間に案内された。久しぶりに畳の上に座る。

「お父さん、死んだって白澄から聞いた」
「うん」

お母さんはキッチンでお茶を用意している。

「お葬式の準備とか・・・、私にできることある?」
「葬式の手続きとかもろもろは葬儀屋に頼んでるから、菫は当日親族として手伝ってくれたらいいよ」

お母さんがキッチンからお菓子とお茶を持ってきて私の前に座った。

「菫の部屋は昔のままだから、こっちにいる間はその部屋使いなさい」
「うん。ありがとう」

私の部屋をそのままにしてくれていたことに驚いた。

「菫が連絡しなくなったのって、お父さんが原因でしょう?」
「え・・・」

私は、母親に気づかれていないと思っていた。

「わかるわよ。だって母親なんだから。それをわかっていたから、無理に菫を探して、電話しようともしなかった。きっと嫌がるだろうから」

父親が死んだから帰ってきた私を責めるような様子はない。
こんなに慈悲深い、無条件に愛を向けられてもよいのだろうか。
私にそんな資格などあるのだろうか。

「菫、結婚したのよね・・・」
「え?」

なぜ、知っているのだろう。
私はとっさに手元を見るが、今日の私は婚約指輪をしていない。
気づく要素が何もない。

私が驚くと、母親は言ったらいけなかったかしらと呟いた。

「何?言ったらいけないって」
「蓮くん」
「え、なんで名前知ってるの?」

私はますます衝撃を受けていた。

「蓮くん。ちょうど四年前くらいだったかしら。訪ねてきたのよ、ここに」
< 100 / 108 >

この作品をシェア

pagetop